ニューヨーク2018〈後編〉

EL ZINE vol.31に掲載してもらった、ニューヨーク紀行文の後編です(前編はこちら)


ニューヨーク2018 〈後編〉

3月に行っていろいろと見てきた久々のニューヨーク。前号掲載の前編では、主にレコード屋、見たライブなどに触れましたが、この後編では、その中で何回も出てきた「ジェントリフィケーション」とは何かを、日本で実際に起こっている事例も交えながら、噛み砕いていきたいと思います。あんまりニューヨークのことについて書いていませんけど…。

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ジェントリフィケーションとは

今日現在、世界の大都市、じゃなくてもいいが、いわゆる「第一世界」の「都市」について何かを語ろうとすれば、「ジェントリフィケーション」という言葉は避けて通れない。来日するアメリカや西欧のバンドは、口を開けばジェントリフィケーションによっていかに生活が逼迫しているかを語るし(でもまあツアーに出られ、日本に来れてるんだから、そこまで切羽詰まってるわけじゃないとは思うが。旅をすることは、「先進国」にたまたま住んでて、「それなり」の金がある人の特権だということでもある)、これまでEL ZINEに取り上げられたバンドでも、この言葉を口にしていた海外のバンドはいただろう(前号にインタビューが掲載されていた、スペインはマドリッドのバンド、OBEDIENCIAのインタビューでも語られていた)。その前号に掲載されたこの拙文の前編では、特に何の断りもなく使ったが、この後編ではまず、ジェントリフィケーションとは何か、から話を進めたいと思う。

ジェントリフィケーション(gentrification)の日本語訳は、「(下層住宅地の)高級化」とされる場合が多い。ただ、それだけ聞いてもよくわからない。「高級化する」というと、聞こえがいいと思う人もいるかもしれない。「高級化」のプロセスはいろいろあるみたいなので一概には言えないが、簡単に説明すると、貧困層が住む地域に、金持ちやヒップスターたちが流入したり投資をすることで、その地域の「価格」が上がり、もともとそこに住んでいた人たち=貧困層は、高くなった家賃や物価を払う余裕がなくなり、遂にはそこを離れざるを得なくなるという現象のことだ。ここ数年よく耳にするのは、カリフォルニアのベイエリア周辺の「テック・ブーム」により起きているもので、GoogleやFacebookなどのテック系企業がベイエリア近郊にオフィスを構え、若い金を持ったそれらの企業のエンジニアなどがサンフランシスコやその近郊に移り住んで(彼らは会社が用意するバスで、街から会社へ通勤することもあるとか)家賃が高騰、元々住んでた貧困層は家賃が払えず住めなくなり、他の都市に移るか、最悪ホームレスにならざるをえない、という末路が待っている。要は、金がなければ出て行け、というあからさまな排除が行われる、とても資本主義然とした現象だ。
ちなみに「高級化」をする側、つまりお金を持ってて移り住む側の視点で考えてみると、「中間層~富裕層の人々が、貧困で治安の悪い地域を再開発し、『高級化』させる」とネットに書いてあったのを見たことがある。「街をポジティブにアップデートする」なんていう、吐き気のするような言い回しも見た。

ジェントリフィケーションのひとつのプロセスとして、以下のようなものがある。
芸術家、つまりパンクバンドをやっていたり、絵を描いたり、何かアートをやっているような人たちというのは、お金がない。だから必然的に家賃の安い地域へ住むことになる。しかし、そんな人たちがかろうじてやっていける地域に、例えばアート・ギャラリーが出来る。それがちょっとした流行になると、ヒップスター(流行に敏感な(ウザい)人たち)が、「クール!」とか言って目をつけて移り住む。そしてそれを見た開発業者が、お、その土地いいじゃん、みたいな感じで、投資の対象地域に選ぶ。その土地に投資が起こることで、高級店やレストランなどが増え、家賃が上がり、元々住んでいた芸術家やパンクスのような貧乏人は、上がった家賃が払えなくなり、その土地を出ていかざるをえない、というサイクルなわけだ(この「芸術」によってジェントリフィケーションが起こることを、「アートウォッシング」とも言うらしい。芸術家も元々安いからとやってきたのに、その結果自分で自分のクビを絞めることになるから、辛い部分もあるだろう)。ちなみに2016年12月2日に、カリフォルニア州オークランドの芸術家のコレクティブ、「Ghost Ship」が火事になり、36人が亡くなった事故があったが、これもある種のジェントリフィケーションの被害によるものだという意見もあった。法律的に「住んではいけない」場所に多数のアーティストが住んで、イベントを行っていたらしいが、そうでもしないと住めない状況に、そのアーティストたちは追いやられていたわけだ。それは別にギャラリーだけに限った話でもなく、たとえば日本のケースに置きかえると、「アメリカ西海岸からやってきたオシャレなカフェ」とか、「オーガニック料理を出すエコロジーなレストラン」といった、ゼイリブ的世界をにおわせる美辞麗句をまとったお店が、東京であれば、いわゆる下町なんかにできた時は要注意だ。そのお店に善意があろうがなかろうが、それが結果として「流行」を起こせば、その土地がジェントリファイされるきっかけにもなる。まあ今の所日本のジェントリフィケーションは、行政が主体となった「再開発」が主流で、現在なら前編にも書いたように、2020年のクソ忌々しいオリンピックのために、明治公園や渋谷の宮下公園(こちらは三井不動産と渋谷区の結託事業らしい)を再開発するために、野宿者の排除が平気で行われているありさまだ。え? きれいになっていいじゃない? 野宿者とパンクは関係ない? 再開発賛成? そんなあなたはもしかしたら、「高級化」をする側の人間かもしれない。Nadaたちがかけてたあのサングラスをかけて、鏡の前で己を見てみるといい。

ニューヨークのジェントリフィケーション

さて、この紀行文はあくまでニューヨークについてのものだった。ジェントリフィケーションの説明に始終して誌面を減らす前に、ニューヨークのそれについて感じたことも書いとかないと。タイトルに偽りあり、になってはいけない。
前編の最後に引用した、「世界で一番長い旅路は、ブルックリンからマンハッタンへの旅路である」という意味深長な言葉は、アメリカのネオコンの始祖とされるユダヤ系アメリカ人学者、ノーマン・ポドレッツが1967年の自伝、『文学対アメリカ――ユダヤ人作家の記録』(原題:“Making It”)の冒頭に書いた言葉だそうだ。ポドレッツは移民の町ブルックリンに住む貧民ユダヤ少年、まわりはイタリア系移民や黒人に囲まれた状況。そんな少年が、イースト川で隔てられた、たった数百メートル先にあるマンハッタンという島に憧れる――貧しい人たちが住んだ当時のブルックリン側からの、中産階級への憧憬がこの言葉や、貧しいユダヤ人から中産階級、はては保守論壇のスターとなったポドレッツの人生からは読み取れるわけだが、心理的にはそれくらい長い距離が、当時のマンハッタンとブルックリンの間にはあったのだ(念のため断っておくが、私はポドレッツの思想を支持するものではない)。

今となっては、ブルックリンのあらゆる方面とマンハッタンは、数本の橋だけではなく、血管のようにはりめぐらされた地下鉄でつながっている(もっともユニオンスクエアからウィリアムズバーグ方面へと向かうLトレインは、2012年のハリケーン「サンディ」の影響で、来年から修復のために一時閉鎖となるらしいが)。前編で書いたように、マンハッタンの南東地域、イースト・ヴィレッジやロウアー・イースト・サイドはとっくにジェントリフィケーションが済み、それが川向こうのブルックリンにもだんだんと侵食し始めた。奇妙なデザインのハイライズがイースト川沿いに立ち並び、リノベーションされた倉庫にオシャレなお店が入るウィリアムズバーグがまずその筆頭だ。もともとはユダヤ人やプエルトリコからの移民が住んでいた地域だが、そこにマンハッタンから溢れた中産階級の白人が住み始め、家賃は高騰。今「ウィリアムズバーグ」と日本語でググると、「NYで一番オシャレでアツい!」とか出てきて、そのサイトを開けば、「ウィリアムズバーグで流行の最先端をいくヒップスター気分を味わってきてくださいね」とご丁寧に安い推薦文まで出てくる。ヒップスターってやっぱり「ポジティブ」な言葉として理解されてるのか? うんざりだな。
ちなみにウィリアムズバーグのイースト川沿いには、かつて”Death By Audio”という、インディー・バンド向けのライブができる倉庫があったが、2014年にVice Mediaがその建物を借り上げ、退去を求めたため立ち退かざるをえなかったという。他にも285 KentというDIYなハコもあったが、(お金がなくて)違法営業だったことも手伝い、こちらも2014年に建物が買われ閉店。DIY文化も金でぶっ潰す。これもジェントリフィケーションのひとつの側面だろう。

ネットから拾ってきた「計画図」だが、こんなデザインの高層マンションを建てるとかいう情報が、そこらじゅうで見つかる。

ネットから拾ってきた「計画図」だが、こんなデザインの高層マンションを建てるとかいう情報が、そこらじゅうで見つかる。

さて、もちろんジェントリフィケーションの「侵撃」はウィリアムズバーグにとどまることなく、南のベッドスタイ(黒人が居住するエリアにあるイタリア系のピザ屋を中心に、人種差別を扱ったスパイク・リーの1989年の映画、『ドゥ・ザ・ライト・シング』の舞台)や、その東のブッシュウィックなど、ブルックリン各地でそれぞれ違った経緯をたどりながら広がっているらしい。ブッシュウィックは前編で触れたレコード屋、Material Worldや、古本屋以外閉まっていた“Punk Alley”があるエリアだ。ウィリアムズバーグとブッシュウィックを分けて東西に走るフラッシング・アベニューには、この写真ような建設中のマンションが多数あった。
bushwick
このあたりは道はまだガタガタ、道路はゴミだらけで、どこか安心するわけだが、こういったマンションに富裕層が住み始めれば、小綺麗で画一的な風景になってしまうんだろう。

ジェントリフィケーションがマズい点は色々あるが、コミュニティを破壊し排除する上に、差別を再生産する点が一番の問題だろう。元々住んでいた住人たちを経済的に追い出すわけだから、その人たちが長年にわたって培ってきた関係やコミュニティは、一気に破断されてしまう。そして入ってくる金持ちは、マンハッタンの企業に勤める資本主義、拝金主義の申し子みたいなのばかりだから、そんな横のつながりは気にも留めない。元から住んでいた「貧しい負け組」たちを軽蔑、排除し、差別するだけだろう。悔しかったら金を稼いでみろとでも言わんばかりに。

ジェントリフィケーションはそこらじゅうにある

日本でジェントリフィケーションを体感したければ、東京なら先述の東京オリンピックの名のもとにヤられている渋谷の宮下公園や、「出来上がったもの」であれば、「かつて」のドヤ街、山谷の北にある南千住を見たり調べたりするとわかりやすい。「ホームレス排除」も、もちろんジェントリフィケーションが取るひとつの手段だ。最近は「排除アート」と呼ばれる、その場所・空間を意図しない形で使わせないように、民間主導による「アート」を利用するといういまいましいものすらあるように、アートそのものがジェントリフィケーションの過程そのものに組み込まれ、まるでそれが「市民」の同意も得たものかのように振る舞う排除の方法もある。公園のベンチにアームレストを置いて寝転がれないようにしたり、椅子のようなオブジェクトに傾斜をかけて座れないようにしたり、高架下のスペースなどにホームレスが寝泊まりしないように、ゴツゴツした石を埋め込むとか、そういうやつのことだ。都市部であれば、ちょっとそこらを歩いてみるだけで、いたるところに存在するのが目につくはずだ。

もうどこで見られるようになってしまった、「寝転べない」ベンチ(写真は荒川区の公園)

もうどこでも見られるようになってしまった、「寝転べない」ベンチ(写真は荒川区の公園)


あとは「維新」の橋下が市長時代に打ち出した、大阪は釜ヶ崎の「西成特区構想」、あいりん労働福祉センターの建て替えも、ジェントリフィケーションの一形態だ。そこに住む「汚くて暗い」高齢者たちを追い出し、子育て世代を呼び込むとか何とか。山谷の場合もそうだが、「労働者の街」という「負」のイメージを払拭し、そういった汚く醜い分子を払拭した、「きれいな」街のイメージを作ろうというわけだ。この問題を考える時、日雇い労働者の生活を歌った、岡林信康の「流れ者」も忘れちゃいけない。

ほとんどニューヨークとは関係なくなってしまったが、ニューヨークはその都市の持つ「スピード」により、あらゆる物事の移り変わりが圧倒的に早い。だからそのジェントリフィケーションの歴史を見るにしても、ひとつのいい例なのだ。今やジェントリフィケーションはアメリカや世界の大都市に限った話でもない。果てしのない資本主義の欲望が変態し、見えないモンスターのように世界各地を襲っている。
「奴ら」が考える生活から逸脱するものを排除するジェントリフィケーション=高級化は、パンク的生活とは対極にある。それは多様性もクソも認めない。「豊かな」生活は楽しいぞ、黙って労働して税金を納めろ、という圧力を、町ぐるみで行うのがジェントリフィケーションなのだ。知らぬ間にそちらがわに参加させられている可能性すらある。つまりジェントリフィケーションが進むということは、その排除のターゲットである「下層」のパンクスが、いつの日か駆逐されることすら意味することを覚えておいたほうがいい。町も人も、一緒に「きれい」に一掃される。そんなのはゴメンだろう。

参考文献、サイト:
『ジェントリフィケーションと報復都市 新たなる年のフロンティア』ニール・スミス(原口剛訳)、ミネルヴァ書房(2014年)
『増補改訂版 – 追跡・アメリカの思想家たち』会田弘継、中公文庫(2016年)
『寄せ場 No.28 特集:ジェントリフィケーションへの抵抗』日本寄せ場学会、れんが書房新社(2016年)
「釜ヶ崎路上会議」ツイッター @kamagasakirojyo

20. 8月 2018 by sats
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EL ZINE vol.31 -FATUM インタビュー/ ニューヨーク2018〈後編〉

EL ZINE vol.31は6月28日発売です。
今号では、ロシアのメタリック・クラストバンド、FATUMのインタビューを載せてもらっています。発音に悩む単語ですが、カタカナだと「ファータム」という表記が一番近い、「運命」なんかを意味するラテン語らしいです。

今回は、ZAYの招聘によるツアーもあり、ZAYからの依頼でインタビューすることになったんですが、バンドのことはもちろんですが(あの超クラスティーなアートワークのこととかも)、ロシアの現行バンドのことや、あとちょうどインタビューをする直前に偶然図書館で読んだ、「ゲンロン」という雑誌のロシア現代思想特集や、映画『霊的ボリシェヴィキ』なんかにも関連したりと、最近よく目にするので気になっていた、ロシアの極右思想家・アレクサンドル・ドゥーギンのことを何気なく聞いてみました。するとものすごくちゃんとした回答が返ってきて、このバンドは完全に信頼できる!と確信しました(笑)。それ以外にも、ロシアとウクライナの関係(ウクライナの「革命」について、現地の複雑な状況(ウクライナ政府に後押しされたウクライナのネオナチ武装隊に、ロシア人が加入して、東部独立派地域のロシア系ウクライナ市民を殺す、とか)や、プーチンに対するデモの真相など、手前味噌ですが、(そういうのに興味があれば)お世辞抜きに非常に興味深い内容となってますので、ぜひ買って読んで下さい。
もっと言うと、「アナキスト・ハードコア・パンク的なラディカルな思想を持ってて、かつ音もかっこいい」ことを両立できているバンドはなかなかいない、という私の勝手な持論を覆してくれるバンドでもあります。彼らも「今まで受けた中で一番おもしろいインタビューだった」と言ってくれたし、何より日本に来ることをとても楽しみにしてるので、そんな彼らが何を考えながらあんなバンドをやってるかを知るきっかけにはなるかと思います。

あと今号では、前号の続き、「ニューヨーク2018」の後編も載せてもらっています。前編(さきほどここにも載せました)はアメリカ滞在中に書いていたので勢いでなんとかしてましたが、後編はその勢いももうないので、前編でよく登場した「ジェントリフィケーション」を一から説明しながら、ニューヨークで起きた/起こっているジェントリフィケーションから、東京の山谷~南千住から、現在の渋谷、釜ヶ崎で起こっていることまでを横断して書きました。パンクス=お金がないがコミュニティはある、にとっても無視できない問題だと思うので、こちらも合わせてご一読いただければ。



31
EL ZINE vol.31
6月28日発売予定

●NO FUN AT ALL
(10年ぶりとなるニュー・アルバム『Grit』を4月にリリースしたスウェーデンのキング・オブ・メロディック・パンク・バンド、NO FUN AT ALLのヴォーカルであるIngemarへのインタヴュー)

●NO FUN AT ALLアルバム紹介
(NO FUN AT ALLがこれまでにリリースしたアルバム6枚のディスク・レヴュー)

●RIXE
(フランス/パリのオールドスクールなOi!パンク・バンド、RIXEへのインタヴュー)

●FATUM
(ZAYの招聘により8月に来日を予定しているロシア/モスクワのメタリック・クラスト・バンド、FATUMへのインタヴューby 鈴木智士氏)

●HANK WOOD AND THE HAMMERHEADS
(7月に来日を予定しているニューヨークのガレージ・ハードコア・パンク・バンド、HANK WOOD AND THE HAMMERHEADSへのインタヴューby Shogo氏/GREAT DANCE & Jin Windam氏/LOVE OVER VOLTAGE)

●Umea Punk City
(ex.AC4~現ACID BLOODのKarlによる、スウェーデンUmeaの現地情報コラム)

●END OF POLLUTION
(福岡市博多区のクラスト・パンク・バンド、END OF POLLUTIONのギター・ヴォーカルであるJet氏へのインタヴューby ツトム氏/悲観レーベル)

●SLANT
(SCUMRAIDやAGARI、BLOODKROW BUTCHERなどのメンバーらによる韓国の新バンド、SLANTへのインタヴューby
Shogo氏/GREAT DANCE)

●Dra at helvete!
(正体不明の覆面バンド、SKITKLASSのヴォーカルであるSkitkatt氏によるコラム)

●CHAIN CULT
(DIRTY WOMBSやCONSPIRACY OF DENIALなどのメンバーらによるギリシャ/アテネのポスト・パンク・バンド、CHAIN CULTへのインタヴュー)

●RATOS DE PORAO
(7月に来日を予定しているブラジルのベテラン・ハードコア・バンド、RATOS DE PORAOのヴォーカルであるJ.Gordoへのインタヴューby Rafael Yaekashi)

●高松ハードコア特集 発売記念トーク・ライヴ・レポート
(前号vol.30で掲載させて頂いた「高松ハードコア特集」をキッカケに開催されたトーク・ライヴのレポート記事by 井川氏/IMPULSE
RECORDS~TOONICE etc)

●羅生門
(ワシントンのハードコア・バンド、羅生門でヴォーカルとして活動している浦上皓平氏へのインタヴューby Shogo氏/GREAT DANCE)

●ニューヨーク2018 後編
(2018年3月にニューヨークを旅してきた鈴木智士氏による紀行文、及び「ジェントリフィケーション」についての解説)

●DOWNHATTA
(ブラジルのハードコア・バンド、DOWNHATTAへのインタヴューby Rafael Yaekashi)

●LASHING SPEED DEMONS:MOTORHEAD/Robbo & Wurzel Era
(前号vol.30の続きとなる、”黄金トリオ”期以降の、1982~95年のMOTORHEADについてby 大越よしはる氏)

●チャレンジ・インタヴュー
(クボラ氏[Slight & Slappers])

●ES GIBT KEIN WERT
(発行人によるディスク紹介)

13. 6月 2018 by sats
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ニューヨーク2018〈前編〉

4月末に出たEL ZINE vol.30に掲載してもらった、ニューヨーク紀行文の前編をこちらにも載せておきます(少しだけ加筆修正済み)。
文中に登場するバンドや施設などの音源、ウェブサイトはこちらをどうぞ。
後編は、ほぼジェントリフィケーションのことしか書いてませんが、今月末発売のEL ZINE vol.31に掲載されるので、合わせてどうぞ。


ニューヨーク2018 〈前編〉

去る3月にアメリカに行き、5日間ほどだがニューヨークを見て回ってきた。今回はその紀行文の前編です。

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予定されていた仕事が延期になって、ぽっかりと時間が空いてしまった。私の相方・通称ak(米国籍)は、所用で現在ニューヨークに滞在中。なので今行けば宿代はかからない。ニューヨークにはしばらく行っていない。はるか昔のことに感じるが、2004年のブッシュJr.共和党大会に反対する大規模デモに、当時滞在していたフィラデルフィアのパンクス、NEMAやJIHADの元メンバーなんかと一緒に3日間だけ行ったのが最初で最後だ。マンハッタン中がデモ隊とそれに対する警備で覆われ、「通常」のニューヨークを楽しむ暇なんかなかった。つまり私は、ニューヨーク経験がほぼゼロだ。
航空券はそこまで高くなかった(北京乗り換えのAir China便で、帰りは北京で14時間待ちの、暇人向けで過酷なヤツだが)ので、とりあえず行くことにした。

旅は事前の情報収集があった方が充実するが、今回はそんな時間もない。以前NYCパンク特集もやっていた本誌編集の山路氏と、去年ブルックリンでライブをやったG.A.T.E.S二ツ木氏にレコード屋やライブ関係の情報だけ聞きながら、14年振りにマンハッタンへ。JFK空港から当座の滞在先のグリニッチヴィレッジまで私を運んだAトレインは、何か拍子抜けするほどクリーンだ。ニューヨークの地下鉄はもっと汚くて暗然としていた印象があったが(前回訪れた2004年は、既にルドルフ・ジュリアーニによるニューヨーク市「浄化」後なので、地下鉄はその昔みたいな「危険」な乗り物ではなかったが、それでもそこら中の車両にグラフィティはあった気がする)、東京やロンドン、ベルリンなんかの大都市の地下鉄と何ら変わりがない。パリの小便臭い地下鉄の方が暗く、雰囲気が悪いくらいだ。

さて、勢いで来たニューヨーク。第一の目的は古本屋巡りで、今ニューヨークにはいい古本屋がたくさんあり、そちらは目的をほぼ達成(ニューヨークの古本屋についてはこちらをどうぞ)。あと見たい絵が1つだけあったメトロポリタン美術館にも行った(しっかり25ドル取られたが)。が、あまりこの記事には関係ないのでここでは省略。まずはパンクのレコード屋についてだ。
マンハッタンでの滞在先だったグリニッチヴィレッジに、Generation Recordsという店がある。ここはいわゆるNYHCやメタルが割と多めで、地下にはアメリカのそこらの郊外にあるスリフトストアに置いてそうな、ジャケットが擦れきった古いレコードも大量に置いてあった。が、高い。レコード価格沸騰はここ数年で最早当たり前の事実になったようだが、それでもたとえばリイシュー盤の新品に30ドル出せるほど私の懐事情は芳しくないし、当然のことかもしれないが、価格高騰とレコード欲は見事に反比例した。地下のレコードはサントラやパンクの7インチだけ見たが、興味をそそる物なし。AGNOSTIC FRONTの新しい7インチが19ドルで売っていたのにはぶったまげた。冗談かよ。一体どんな金持ちがこんなレコードを買うんだ。あと昔ベルリンのレコード屋で見かけた日本のバンドのブートや、新発売っぽいブートが売っていたことも記しておこう。ネットがどれだけ普及しようが、ブートの歴史に終わりはなさそうだ。
この店にも、最近のレコードブームの一翼であるらしい昔のB級(だけじゃないが)映画のサントラLPのリイシューが新品で売られていた。たとえばPORTISHEADのジェフ・バーロウなんかは、自身のレーベルInvada Recordsがもはやサントラ・レーベルと化している気もするが(『フリー・ファイア』や『エクス・マキナ』のような、コンポーザーのベン・ソールズベリーと一緒に手がけたトラックはかっこいいけど)、そういったサントラLPもどれも30ドル越えだ。
generation records
18th通り沿いにあるAcademy Recordsというお店は、オールジャンルのレコード+結構な数のDVDやブルーレイがあったが、目ぼしいものはなし。別の日にマンハッタンのBook Off(45th通り沿い) にも行ったが、こちらも大量の薄汚れたDVDや、あとは日本のアニメ関連のものやら、ギターやパソコン関連機器などHard Offで売ってそうなものが置いてあったが、「一体誰がこんなものを持ち込んだんだ」というような和書が結構あったパリのBook Offと比べるとつまらない。もっともどちらも店員に日本語を話す日本人らしい人がいたが、あの人達はいくらもらって働いているのだろうかと疑問は残る。

さて、Lトレインに乗ってマンハッタンを離れ、ブルックリンへ向かおう。Morgan Ave.駅で降りると、そこはまるでカリフォルニアのオークランドのようなだだっ広い倉庫地帯だ。ただここもジェントリフィケーションが進むブッシュウィックという地域。そこらじゅうで工事は進み、妙なデザインのマンションがいくつも建設中。でもここはまだ腐ってもブルックリン、マンハッタンみたいな見せかけの清潔さはなく、道はガタガタで土埃やビニール袋が宙空を舞う。そんな中Flushing Ave.を東へ歩くと、Material Worldというレコード屋が見つかる。ここはHeaven Streetという名前で、EL ZINE vol.17のNYC RAW PUNK特集に載っていたレコード屋だ。この店にKatorga Worksというレーベルをやってて、去年G.A.T.E.Sをニューヨークへ呼んだアダムという人がいる、というのを先の両氏から聞いていたので行ってみたのだ。が、彼はLAにいるらしく会えなかった。残念。お店はハードコア・パンクやアンダーグラウンドメタルを基調にしつつ、ニューウェーブ/デスロック、普通のロックやヒップホップ、テクノなんかも置いてあるあたり、昨今のレコード屋事情を反映しているんだろう。こっちの人はいろんなジャンルを横断して聞く人が多いし、かつヒップなエリアだから客はパンクスだけじゃないわけだ。その珍妙さは、DISCHAGEのでかいフラッグが奥に貼ってある店内には(おそらく検盤中なのだろうが)ニック・ドレイクの”Time of No Reply”がかかり、旅先でのニックの柔らかい歌声に癒やされながら私が購ったのは、イザベル・アジャーニ主演、ジェームズ・アイヴォリー監督の1981年の英仏映画『カルテット』のサントラLPと、APOCALYPSE/MINDROTのSplit7インチ(どちらも5ドル)という事実が示していよう。こんな無秩序なレコード屋だが、もっと買いたいものがあったのに、店員からは「ネットの調子が悪くてカード決済できないから、支払いは現金でヨロシク」と言われ、現金の手持ちがない私は困り、それ以上の買い物を中止。まあトイレ貸してくれたからいいか(ニューヨークは公衆トイレやコンビニのトイレがないので、用を足すのも一苦労。どうしても困ったらスタバへGo!だ)。
Material World
あとブッシュウィックの、パンクスが運営する小さなお店が並ぶという”Punk Alley”にも寄ってみたが、”Better Read Than Dead”という素敵な名前の古本屋しかやっていなかった。他の小さなお店はたたんでしまったのか、週末しかやっていないのか。ちなみにこの古本屋はジンやMaximum Rocknrollも置いていたので、パンク人脈の古本屋なのだろう。細長い建物のいいお店。

ブッシュウィックのPunk Alleyはシャッター街に…

ブッシュウィックのPunk Alleyはシャッター街に…


ブルックリンのジェントリフィケーション進行中地域ウィリアムズバーグには、他にもRough Tradeや、老舗のEarwax Recordなんかもあるが、今回はパス。

さて、せっかく旅に出たんだから、ライブのひとつでも見てみたい。その「土地」を知るにはライブを見るのが手っ取り早い。正直言うと最近のニューヨークのバンドは個人的にまったく興味がわかないが、それでもまあライブは見ておきたい。というわけでネットで検索したりレコード屋のフライヤーを見たりしたが、何が起きてるのかいまいちよくわからない。そうこうしてると、Facebookのフィードにこんな(ひどい)フライヤーが出てきた。
Youth Crusher
会場のホームページを見てみると、同日同時刻開始で、こんなライブも載っている。
Sex Prisoner
2つのライブを同時開催? そのFacebookのフライヤーを上げていた友人、コロンビア出身のパンクスで、2012年に韓国で知り合って以来、たまに連絡を取っていたディエゴという奴だが(一時期日本も長く旅行していたので、遊んだことがある人もいるかもしれない)、彼に連絡してみたところ、SPIC(Salir De La Pobreza Induce al Caos)というのが彼が今ニューヨークでやっているバンドらしい。これはちょうどいい。滞在していたブルックリンのとても住みやすそうなエリア、プロスペクトハイツ(ラッキーなことに、滞在の途中でマンハッタンからブルックリンへ滞在先が変わったのだ)から、もうあまりパンクのライブに興味がないakと一緒に少し歩いてGトレインに乗り、Greenpoint Ave.駅まで行く。駅出口からすぐのところにあるBrooklyn Bazaarという会場は、ファンシーなレストラン&バーで、そこにライブができるスペースが3つくらいあるらしい。先のSEX PRISONERのような流行パワーバイオレンス系は、今夜は2階のライブスペースでやり(3月のスケジュールを見たら、DAG NASTY、MORTUARY DRAPEなんかもやるらしい)、聞いたこともないようなDIYパンクバンドは、暗く湿った掃き溜めのような地下でやるわけだ。
ディエゴの「俺たち1番目で20:30からスタートだから」という言に従い、20時過ぎに到着。フライヤーには”All Ages”と書いてあったが、建物に入ると屈強そうなセキュリティがもれなくIDチェック。地下のスペースに行くと、まだほとんど人がいない。このライブの企画者らしいダンというナイスガイがakの友人らしく、しばし話したり、彼がドリンクチケットをくれたのでビールを飲んだりして時間を潰す。ディエゴがようやく現れ、久々に色々と身の上話だが、こいつの英語はすげー速くて聞き取りにくいんだった…。国に帰ったりアメリカに戻って職を得たりと、その後の人生は色々あったらしいが、元気そうで何より。SPICのドラムが来ないのでライブはなかなか始まらず、ようやくスタートしたのが22時半。2時間押しだ。昔アメリカでライブしたときも、時間にルーズなショーはあったが、アメリカで2時間押しは初めてだな。メキシコのティファナでライブしたときに4時間押しというのがあったり、ギリシャではライブが深夜0時に始まったりしたが、まあその土地それぞれの時間感覚というものがあるのでしょう。

SPIC

SPIC


SPICはメンバー全員中南米系の、ちょっとフリーキーなラティーノパンク。ドラムがパワフルでかっこいい。次は地元のRUBBERというバンド。ギターとボーカルが女性で、EL ZINE vol.29に興味深いインタビューが載っていたHARAMのボーカルがベースを弾いていた。ボーカルはグラム/ゴスがかったようなファッションにリバーブ全開の、いかにも今のニューヨーク風なロウパンク。このバンドは人気らしく、今晩一番の人だかり。
RUBBER

RUBBER


次のバンドが、ギリシャはアテネからのツアーバンドのYOUTH CRUSHERで、その名の通りスポーティーなオールドスクール・ハードコア。「俺たちのことなんて誰も知らないけど、こういうバンドもいるんだよ」と、RUBBERが終わって一気に少なくなった客に対して寂しげに語り悲哀を誘う。ラストはΜάτιというギリシャ語のバンド名だが、どうやら在米のグリーク・アメリカンによるバンドらしい。THE ACCUSEDみたいなギターが刻みまくってるスラッシュバンド。
各バンドの音楽より気になったのは、バンド、客を含めたそこにいた人たちの「見た目」だ。RUBBERやその周りは個性的な、いわゆるパンク・アウトしたようなファッションだが、最近のベイエリアのような真っ黒鋲ジャン一辺倒ではなくて、カラフルでもっと各人自由な感じ。小金持ちの親の援助を受け(要は仕送りもらって)ニューヨークやサンフランシスコで活動する若いパンクスもいると聞くし、そういった服もそれなりに金もかかってるのかもしれない。そのまま『マッド・マックス』に出てきそうなプロテクターを装着してたかっこいいバイカー・パンクスもいたな。SPICのメンバーはボロボロな服着てたし、ギリシャのバンドはジーンズに土色ジャケットの労働者的風貌。お客も上記RUBBER系からDC真面目ハードコア系(つまり普通の格好)、カレッジロック風、おしゃれな女性たち(そういえばお客の3割くらいは女性だった)と、それぞれの生活が透けて見えるようなファッションがその地下室に同居していた。そんなところからもニューヨーク・パンク内の階級性が見えるのかもしれない。
ライブが終わったのが0時半。外に出るとあまりに寒い。強い風が顔を切るような冷たさで、駅から歩いて帰れる気温じゃない。一応24時間走っている地下鉄は諦め、タクシーで帰る。労組もなく、ドライバーの実質的最賃も下手すりゃ時給3ドルというUberはやめておこう。

「ニューヨークのハードコア・パンク」と言えば、「名所」が色々あるが、マンハッタン滞在中のある晴れた日に、散歩がてらイースト・ビレッジに向かった。1988年の8月6日~7日に暴動があったトンプキンス・スクエア・パークを見ておくためだ。この暴動は、その公園に住んでいたホームレスやスクワッターたちが、地域の治安悪化やジェントリフィケーションを理由に警察に排除され起きた暴動で、Youtubeには、その暴動の1週間後にNAUSEAやBREAKDOWNなど、当時のニューヨークのバンドが同公園でライブを行った動画が上がっている。その後も毎年のように、この暴動を忘れないようにと、ライブが行われているみたいだ。暴動記念で毎年ライブなんて素敵じゃないか。
当時の公園の様子は文献でも当たらない限り、ネット上の情報以外に知る由もないが、今の公園はきれいなもので、北の一角にはドッグランのようなものすらあって地元民の憩いの場のようだった。ホームレスの人なんかひとりもいない。まあ似たようなことは日本でも起きていて、たとえば愛知万博開催のために、2005年の1月24日に、名古屋の白川公園の野宿者が行政代執行で排除された現場や、最近だと2020年のオリンピックのために行政が野宿者を明治公園などから追い出す光景と地続きなわけだ。

トンプキンス・スクエア・パーク

トンプキンス・スクエア・パーク


トンプキンス・スクエア・パークから東へ1ブロック行くと、元C-Squatの建物がある。現在は”Museum of Reclaimed Urban Space(MoRUS)”という、上記暴動やニューヨークのスクワット文化の資料館みたいな施設になっているらしい。せっかくなのでお金を払ってでも入ってみようと思い、11時オープンということで11時半くらいに行ったんだが、開いておらず。
そこから南へ歩くとロウアーイーストサイドに入り、ジン図書館やギャラリー、Food not Bombsなどのコレクティブの中心地で、ハードコア・パンクや地下メタルのライブが数多く行われてきた著名な施設・ABC No Rioがあるのだが、行ってみたら、何と建物がない! ホームページを見ると、老朽化によりビルを建て替え中、再びソーシャルセンターのような機能を持たせる施設にするということで、カンパも受け付けているみたい。しかし相当金がかかりそう。
あと最後にこれを載せておこう。現在のCBGB跡だ。
CBGB
2008年より、ジョン・ヴァルヴェイトスというデザイナーのファンシーな服を売るブティックがテナントとして入っている。壁には当時のフライヤーやレコードなどが申し訳程度に残されているらしいが、店に入る気も起こらない。
このように、ニューヨーク・ハードコア・パンクの「過去」は表面的には消えつつあるのかもしれないが、その街のごとく入れ替わり激しくパンクスがうごめき、様々な活動が行われる中で、バンドや人、組織のあり方も変わっていくのだろう。その変化のスピードがおそらくニューヨークはとても早い。

超駆け足で書いた今回の雑文だが、次号後編では、今回何度も出てきた「ジェントリフィケーション」という言葉を噛み砕きながら、1967年にある米保守学者が言った、「世界で一番長い旅路は、ブルックリンからマンハッタンへの旅路である」という言葉の現在を考えたい。(つづく)

13. 6月 2018 by sats
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ニューヨークの古本屋 〈2018年3月編〉

もう1ヶ月以上経ってしまって、記憶も曖昧になりつつあるが、3月にニューヨークに行った際に訪れた古書店をまとめておく。
このブログ、一応パンクス向けの記事が多いし、もちろんパンクスが読むであろうと想定して書いてるつもりなんだが、前にも書いたように、検索でここにやってくる人には、イスラエルの入出国の記事。あとはエルサレムの古書店とか、那覇の古書店など、ある種実用的な記事しか読まれてない(最近google analyticsがちゃんと動いていないので、検索の内訳がわかんなくて困ってるんだけど。T君(このブログのサーバの持ち主)、何とかして!)っぽいので、まあニューヨークのについても書いておこうと。

ただニューヨークは、ジェントリフィケーションなどもあって家賃は高騰、ヒップな地域がどんどん移り変わったりするせいで、店の移り変わりも早そうなので、以下の店がいつまであるかは知らないし、同じ場所でも経営者が変わって名前を変えるとか、いろんなことは想定されるので、ググってここにたどり着いたひとは最新の情報をチェックしてください。

傾向としては、やはりブロードウェイや映画・テレビ産業などの中心地でもあるからなのか、どの店もフィクションや演劇、詩の本の取り扱いが多いのと、店内で朗読会などのイベントをやってるところも多そうだった。

〈マンハッタン〉

Strand Bookstore
Strand bookstore
ニューヨークの老舗大型古書店。新本も売ってる。店の外の「エサ箱」的1ドル本がかなり充実してるとakが言ってたので行ってみたが、エサ箱にはえらい人だかりで、おまけにメチャクチャ寒いのでササっと見て店内へ。4フロアあるのか、とにかく在庫は多い。新本の面陳のように、同じ古書を10冊も積んで売ってるって、商品の回転が早くないとなかなかできないよな。こっちの人は新刊本は読んだら値が高いうちに古書店に売っ払うんだろうか。
地下には最近猛烈に流行ってるらしいタロットやオカルトのコーナーがあって、そこにお香の一つとして毎日香が売ってたが、向こうの毎日香には何かウーウー的意味があるんだろうか。
ここでは文庫版みたいな扱いの、Bantam Classics版のシャーロット・ブロンテの“Villette”を新本で購入。5.35ドル。新本でも10%オフ。でもニューヨークはSales Tax(消費税みたいなの)が8.875%と高いのであった。
住所:828 Broadway, New York
https://www.strandbooks.com/

Mercer Books & Records
Mercer st. bookstore
グリニッチヴィレッジのニューヨーク大学一帯の南側ら辺にある、オールドスクールな古本屋。後からブルックリンのきれい目な古本屋にいくつか行って思ったが、こういった古くて雑然として、カテゴリも適当に分けてある古本屋の方が、古本屋然としていて、何かと出会える感が高いし、値段も安いし、お店は爺さんひとりでやってるぽくて好感が持てる。こっちは古本屋に限らず、どこでも何でも大体カード決済が可能で楽だが、そのカード読み取りも、最近多くのお店が使ってるらしい「Square」というカード決済アプリ(iPadなんかにリーダー(端末)をつけて、それでカードを読み取って、レシートはメールで受け取る。便利は便利なんだけど)だとあまりにモダンすぎて味気ないので、やっぱり調子の悪いカードマシーンがあって、カードを何回もスライドさせて、汚いボタンで暗証番号打つ方がいいよね。まあ単にそういったヒップな決済システムがちょっと嫌なだけなんだけど。
さて、この店はレコードもちょっと売ってて、リチャード・プライヤーが自分で撮った自伝映画『ジョ・ジョ・ダンサー』のサントラが売ってたので購入。6ドルだったか。
ホームページを見ると、もう25年もやってるのね。この25年でこの地域の家賃はどれくらい上がったんだろう。
住所:206 Mercer St, New York
http://www.mercerstreetbooks.com/

Codex
Codex
ここは下記ブルックリンのBook Thug Nationの関連店なのか、そのSquare経由で受け取ったレシートの差出人がBTNだった。
いかにも最近風な、オシャレでスッキリした店内に、フィクションやアート系の本がたくさん陳列してある。地面に本を置く、なんていう、日本の古本屋じゃ当たり前過ぎて何も思わないようなことは行われておらず(笑)、きれいすぎてこちらが恐縮するくらいだ。隣のカフェとは店内で繋がってるのもオシャレポイントが高い(私的にはマイナスポイントだが)。
シャーリイ・ジャクスンの“Raising Demons”(『野蛮人との生活』(ハヤカワ文庫)は冷徹な観察眼で家族を見るノンフィクションで、小説以上にすげー面白いから、これも邦訳出たらいいのに)と、チャールズ・ウィリアムズの“War in Heaven”を購入。さて、ちゃんと読めるだろうか…。そういやどっちも国書刊行会の「ドーキーアーカイヴ」に入ってる作家だな。『ライオンの場所』早く読みたいよ。
住所:1 Bleecker St, New York
http://codexbooks.info/

BOOKOFF 49 W 45th NY
昔パリのブックオフに行ったら、結構いろんな物があって(以前書いたが、早逝した詩人の安川奈緒氏に宛てた雑誌の献本なんかも売っていた)、ちょっと期待して行ったんだが、汚いDVDがたくさんと、楽器やPC機器のようなハードオフ扱いの製品、あとアメリカのアニメオタク向けなのか、そういった関係のものが多くて、特に目ぼしいものもなし。がっかりしたから写真撮るのも忘れちゃったよ。
住所:49 West 45th Street New York

〈ブルックリン〉

Book Thug Nation
bookthugnation
ここはブルックリンのジェントリフィケーション中心エリア、ウィリアムズバーグにある。メトロだとLトレインのBedford Ave駅が最寄り。
ここも綺麗な古書店で、いかにもと言ったら失礼だが、ジェントリファイドされた後にできました、という感じはする。地面に本を置かないのは、先述のCodexと同じ系列だから、きっとここのポリシーなんだろう。地面を這うようにして、何かよくわからないけどひたすら本を探す行為というのも好きなんだが、それはおあずけというか、そういうことをさせない雰囲気のお店。
コミュニティ・スペースとも書いてあったので、集会やイベントも行われているようだ。今回ウィリアムズバーグにはここ以外行かなかったので、何がどれくらい「高級化」してるかはよくわからないのだが、ブルックリンの中でも何か「きれい」だな、というのは少し道を歩けばわかる。イーストリバー沿いには変なデザインのハイライズが立ち並び、もう南千住駅の東側みたいになっている(地価はまったく比較できないだろうが)。そういえば駅からここまでの間に、きれいな店構えのアート専門の書店があった。そっちにはお客さんもたくさんいた。
さて、このサグな店では、ジョン・ウォーターズの自伝“Role Models”を安く購入。あとDaniel Makagonという人の、アメリカのアンダーグラウンド・パンクの本も買った。90年代の話かと思ってよく見ずに買ったんだが、2015年出版でわりと新し目のバンドのことも載っている。
住所:100 N 3rd St, Brooklyn, NY
http://www.bookthugnation.com/

Better Read Than Dead
better read than dead bushwick
ここは、EL ZINE編集Y氏に教えてもらった、ブッシュウィックの「パンク小道」を目当てに行ったんだが、平日の昼間に行ったからなのか、もう今はそこは何もないのか知らないが、このお店しかやっていなかった。細長い形の店舗で、外のエサ箱にはSFのペーパーバック(ひたすらアシモフとか)と、文字通りの箱には色あせたMaximum Rocknrollの90年代のバックナンバーが1冊2ドルで売っている。ちょっと期待しながら中へ入ったら、今のMRRも売ってたので、パンク小道にあるパンク人脈の本屋なのだろう。店員のあんちゃんは真面目そうな人だ。狭い店内はほとんどフィクションと詩の本だけ。ここではトマス・ディッシュの未邦訳の長編のハードカバー1冊と、スターリンのインタビューが載ってるMRRの92年10月号を購入。ディッシュたくさんあったな。あとセリーヌもたくさんあった。ニューヨークの古本屋にはセリーヌが多い! というのは今回気付いたことのひとつ。アメリカではどこまで発禁になっているか知らないが、日本で文庫本で出てる代表作2作に加え、『北』、『城から城』、“London Bridge”は結構よく見かけた。
しかしこんな狭い店で、必然的に在庫もそんなに置く場所もなく、これでやっていけるのだろうかとちょっと心配にもなる。「どう? やっていけてるかい?」と聞くわけにもいかんしねぇ。もっと買えたらよかったんだが、本は重いからねぇ。

これがその「パンク小道」の現在。左手がその本屋。ね、何もやってないでしょ。

これがその「パンク小道」の現在。左手前がその本屋。ね、何もやってないでしょ。


住所:867 Broadway, Brooklyn

Human Relations
Human relations bushwick
上のBetter Read Than Deadのあんちゃんに、この辺に他に古本屋はある?と聞いたら教えてくれたのがこのお店。実はその前に行っていたレコード屋、Material Worldの対面にあるのだった。ブッシュウィックの建設中の大型マンションを見ながら、Flushing Aveを往復したことになる。ちょっと疲れたな。
ここはわりと大きめの店で、フィクション以外にもコミックやアートの本、ニューヨークではもう珍しくすら感じる、大きめのノンフィクションのコーナーもあった。Material Worldで買ったレコードが入った赤い袋を持ってると、素敵な笑顔の店員のおじさんが「何買ったの?見せてよ」と話しかけてきたので仕方なく見せたところ、「へー、知らないなあ」という不毛な会話をしたあと、あのレコード屋いいよね、俺も昨日行ったんだよ、これ買ったんだ、聞く? と会話が続く。やぱりMaterial Worldはメタル、パンク向けだけのレコード屋じゃないんだな(このあたりはEL ZINE vol.30の拙稿「ニューヨーク2018」を参照いただきたい)。
というわけで、気さくな店員のおじさんがいて、お客さんも結構たくさんいて繁盛してそうなこのお店では、オクタヴィア・バトラーの長編などを購入。ここもSquareで決済。
住所:1067 Flushing Ave, Brooklyn
http://www.humanrelationsbooks.com/

Unnameable Books
(写真撮るの忘れた)
ブルックリンで数日滞在させてもらった、akの友人の家からほど近いところにあったプロスペクトハイツのど真ん中のお店。このあたり、子供向けの本専門店、ってのがいくつかあるようで、このお店にも絵本がたくさん置いてあったので、子育てファミリーが多いエリアなのかな。
ここはフィクションは他のお店よりは少なめ、子供用の本の他にも、「LGBT」の棚、Black Studiesの棚などもあり、多分古くからやってるお店なんだろう。ここに来て、新しいお店=フィクションの割合が多い、ということが段々わかってきたぞ。現にここのカード決済は、Squareじゃなくてちゃんとしたカードリーダーでボタン押すタイプだった。私の好きな類の古本屋だ。
ここではBrian Evensonの長編1冊などを購入。Brian Evensonは結構な多作の作家だが、いつも洋書で買ったやつを読み切らないうちに、それの邦訳が出る。私の選択が悪いのだろうか、センスがいいのだろうか、短編集だからだろうか、それは知らない。で、邦訳が出ると洋書を読むのが億劫になり、でも邦訳を買うのも何だかもったいないので、結局読み進められない、というジレンマに陥るが、今回は邦訳出る前に読み終えられるのだろうか。
あとクラスナホルカイ・ラースローの、わりと最近英訳が出たらしい“Seiobo There Below”を買おうか迷ったが、中をチラ見すると、相変わらず改行がなく文章が延々と続いているので、こんなの読むのに何年かかるんだと思い諦めた。英訳からの重訳でいいので、誰か邦訳してください! 他の作品もね! 『北は山、南は湖…』(松籟社)はそんなに面白くないんだよな…。
住所:600 Vanderbilt Ave, Brooklyn
http://unnameablebooks.blogspot.jp/

というわけでブックオフも入れて8店。しかし、重要なことは、買った本はちゃんと読まないと、ということだ…。
レコードに比べて本は単価がかなり安いので、Better Read Than Deadのように、やっていけてるのか心配になるお店もあるが、まあこればかりは仕方ない。特にニューヨークでやるなんて相当に大変なのは覚悟の上でやってるんだろう。日本でも最近はブックカフェとか、古書店で朗読や弾き語りイベントなんかをやってるところもあるが、そうやってコミュニティの中で活用される場としても、古本屋を機能させているようだし。ただ本を売る、というのはもうネットで事足りてしまうから、それ以上の何か、“Human Relations”という名を冠したお店が示すように、人と人をつなげる場に、古本屋の意義も変わってきているのかもしれない。今までインフォショップが担ってきたことを、古本屋もやるようになったということか。そういや今回は古本屋に気を取られて、インフォショップとか、ラディカル本屋的なところには行かなかったな。以前サンフランシスコにはあったが、ラディカル本屋がやってる古本屋ってのもニューヨークにはなさそうだった。

24. 4月 2018 by sats
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EL ZINE vol.30 -SEX MESSIAH インタビュー/ ニューヨーク2018〈前編〉

EL ZINE vol.30は4月27日発売です。

今回は、大阪のブラックメタルバンド、SEX MESSIAHの首謀者で、その他も色々な音楽活動をされているMOENOS氏にインタビューしました。
パンクス視点で、「ブラックメタル」への疑問なども思い切って聞いてみましたが、氏の音楽に対する真摯な姿勢がそのまま回答に出ている、パンクスにとってもメタルヘッズにとっても読み応え十分の内容だと思います。またこういったアンダーグラウンドのシーンで「女性がバンドをやること」についても、ズバっと言い切ってもらってるので、ぜひご一読を。
↓の昨年のブラジルツアーの話もあり!

Better read than dead
あと今号にはもうひとつ寄稿してまして、先月半ばに行ってきたニューヨークの、ハードコア・パンク関連のことについての紀行文(の前半)を載せてもらっています。名付けて「ニューヨーク2018」…、記事タイトルのデザインも、ジョン・カーペンターのあれから拝借してもらったので、安直なタイトルですがご勘弁ください(笑)。
前編はとりあえず、ニューヨークのレコード屋のことや見たライブのこと、ニューヨーク・ハードコア・パンク的「名所」の現在などについて書いてます。vol.31に掲載予定の後編は、ニューヨークの「歴史ある」ジェントリフィケーションのことなどが主に載ります。
記事中に登場するバンドや施設などのリンクをここに貼っておくので、興味があればどうぞ。

↓のライブに行ったのでした。
show 0316
SPIC

RUBBER

YOUTH CRUSHER(ギリシャ)

Μάτι

The Museum of reclaimed Urban space (元C-Squat)
http://www.morusnyc.org/

ABC No Rio(再建中)
http://www.abcnorio.org/

元CBGBの場所にある高級服屋…
https://www.johnvarvatos.com/storedetails?StoreID=3008


ez30
EL ZINE / vol.30

●SKITKLASS
(2017年に突如として日本のハードコア・パンク・シーンに登場し、立て続けにリリースされた音源はいずれも即完売。正体不明の覆面バンド、SKITKLASSのヴォーカリストであるSkitkatt氏へのインタヴュー)

●OBEDIENCIA
(ロンドンのLa Vida Es Un Musからのアルバム・リリースも記憶に新しい、スペインはマドリッドの女性ヴォーカル・パンク・ロック・バンド、OBEDIENCIAへのインタヴュー)

●SOLVENT COBALT
(ex.ISTERISMOのSatoshi氏が率いる新バンド、SOLVENT COBALTへのインタヴューby Shogo氏/GREAT DANCE,ALTERNATIVE SOLUTION)

●Umea Punk City
(ex.AC4~現ACID BLOODのKarlによる、スウェーデンUmeaの現地情報コラム)

●Moenos from SEX MESSIAH
(大阪のブラック・メタル・バンドSEX MESSIAHのMoenos氏へのインタヴューby鈴木智士氏)

●SOW THREAT
(1stフル・アルバムのリリースを控える沖縄のステンチ・クラスト・バンド、SOW THREATのベース・ヴォーカルであるハチマン氏へのインタヴュー)

●沖縄バンド紹介
(沖縄で現在活動中の5バンド[ALKSLK、BIRDHELMS、疾shitva刃、offseason、R.A.G.S]へのミニ・インタヴュー)

●チヒロンfrom黄金狂時代
(東京のパンク・ロック・バンド、黄金狂時代のベーシストであるチヒロン氏へのインタヴューbyツトム氏/悲観レーベル)

●高松ハードコア特集
(・80年代の香川県高松市にCHAOS UKやJohnny Thundersなどを招聘し、様々なイヴェントを企画していた堀地氏と、ex.EFFIGY~AXEWIELDにして現在はULCERで活動中の増田氏による、高松の80年代についての対談。
・OFF-ENDの荒木氏、AKKA~DEMESNEのハナ氏、UNGODLYのガイ氏、IMPULSE RECORDS etcの井川氏による現在~未来の高松についての対談。
・高松で活動中の20バンドを紹介するテキスト)

●OHYDA
(ex.ALERT! ALERT!~KNIFE IN THE LEGのメンバーらによるポーランドのハードコア・バンド、OHYDAへのインタヴュー)

●LASHING SPEED DEMONS:MOTORHEAD/Fast Eddie Clarke Era
(2018年1月10日に亡くなったFast Eddie Clarkeが在籍していた、1976~82年までの”黄金トリオ”期のMOTORHEADについてby 大越よしはる氏)

●ASCO
(ブラジルはサントスのハードコア・バンド、ASCOへのインタヴューby Rafael Yaekashi)

●ニューヨーク2018
(2018年3月にニューヨークを旅してきた鈴木智士氏による紀行文、その前編)

●ES GIBT KEIN WERT
(発行人によるディスク紹介)

●チャレンジ・インタヴュー
(EFU氏[FAST aka FAST zine])

14. 4月 2018 by sats
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