金沢のこと

今年前半は時間があったので、一度やってみたかった映画の字幕翻訳をやってみようと思い、春から手伝っていたカナザワ映画祭2016。結果的に映画祭期間中も現地でずっと手伝って、まるで海外にツアーに出ているような、非日常的で、狂った濃い時間を過ごしたのでした。

今まで何回も書いたけど、カナザワ映画祭はその前の母体なのか、2006年の「コミュニティシネマ映画祭」に、大阪のバンド・SCREWBALL(先週久々に東京にやってきた!)のMさんと一緒に行ったのが始まりで、以降まだ東海に住んでたときは、近いこともあって、行けるときは行っていた。確かにあの映画祭では、客として映画を見ているだけでも、いつも非日常的で時間の感覚が狂っていくのを感じていた、だって間髪入れずに一日に何本も続けておかしな映画を見るんだからね。日常でまだよく起こりうる、名画座で2本立て、とはわけが違う。泊まり込みなので車中泊だったり、片町のサウナだったりに泊まったっけな。ただ、2008年はUGのヨーロッパツアーと日程がまるかぶりで行けず、とても見たかったクリスピン・グローヴァーの「ビッグ・スライド・ショウ」が見れなかった。以降見れなかったことをかなり本気で悔やんでいた。簡単に見れないゆえに余計に見たくなるのは人の心というもの。自分で映画を持ってきて上映するとは一体何なのか。気になってしょうがなかった。おまけにそのMさんは見に行ってて絶賛してたし、アメリカの友人などに聞いても、見たことはないけど噂は聞いているとかで、みな一様に見たがっていた。ああそんなものを見逃してしまったとは! 悔しい! あと私とMさんにとって、カナザワ映画祭といえば殊能センセー探しだったが、センセーも絶賛していて、ああなぜ私は見逃してしまったのだろうかと、ずっとモヤモヤしていた。
それが今年はようやく見れるのだと、再上映が決まったときは、やった!と思ったのだったが、いざ映画祭を手伝うことになって、見れるどころか、成り行きでグローヴァー氏の一連のショウのお手伝いまでやるハメになって、いやはや往生しましたが非常に貴重な体験をさせてもらいました。こういう映画が好きな人で、影響を受けていない人など多分いないであろう、翻訳家の柳下毅一郎さんともご一緒できて(エンドレスQ&Aを淡々と、しかも適格な解説を入れながら訳すのはさすがプロでした)、たまにはいいこともあるもんだ。Q&Aが終わったあとの、結局一日目はAM4時までかかった終わらないサイン会の通訳も、今となってはいい思い出です。

さて、映画祭の終盤で疲れも眠気もピークの中、手伝いでバタバタ&緊張しながらもようやく見れたクリスピン・グローヴァーの映画は、特に『It Is Fine! Everything Is Fine.』が素晴らしくて、久々に映画を見ながらウルっとしてしまった。話は、ある男の恋愛記、とでも言っておけばいいのか。メロドラマです。
グローヴァー氏は入場の時もサイン会の時も、BGMに非常にこだわりを持っていたが(BGMだけじゃないけど…)、この映画でも音楽の使い方が素晴らしくて、オーソドックスなんだけど、見る人の感情を一押しするのにものすごい効果を与えていた。感情が自分の意志と関係なくもってかれる、という感じか。冒頭のスメタナの「わが祖国」から、ベト7とくるみ割り人形が交互にかかって、スクリーンの中の劇とリンクするように、気持ちが順に高ぶっていくのだ。
さて、その前回の2008年に絶賛していた殊能センセーがこう書いていた:

「でもオレは見たもんねー」などと子供っぽい自慢をする気にもなれない。本作はできるだけ多くの人が見るべき映画だからだ。
 ほんとうにみんなに見てもらいたいんだよ。グローヴァーの頑固な上映方針が心底うらめしい。全世界の映画館に配給したあと、DVD化しろよっ! あんたのプライベートフィルムじゃなくて、原作・脚本・主演のスティーヴン・C・スチュアートの映画なんだからさ!」

グローヴァー氏の映画を見る機会がほとんどないのは、彼が自分でフィルムを持ってきて、スライドショウ、映画、Q&A、サイン会をワンセットで行うという、長尺かつ超DIYな興業形態をとっているからだが、確かにこの映画はもっと多くの人に見られるべき素晴らしい作品だと思う。しかしあの長いQ&Aで言っていたように、グローヴァー氏の、少なくともこの「IT3部作」創作の底にあるのは、ハリウッドの商業的映画業界へのアンチテーゼで、障害者を映画の主役に起用しただけで拒否を示すようなハリウッドメジャーに、作品そのものをもって物申しているわけだ。なんという反骨精神! アメリカのプロパガンダをまき散らすハリウッドで稼いだ金で、そのハリウッドを攻撃する、かっこいい! Q&Aの質問に対して、(脱線しながらも)丁寧すぎるほどに一から説明を始めて、サインも最後の1人が終わるまで休憩もとらず、しかも全員とちゃんと会話をするグローヴァー氏。真摯というか、自分のパフォーマンスにまったく妥協をしない、芸術家の鑑のような人だった。Q&Aは、そんなことも言ってしまうのか、みたいなことも話されてたが、まああれは当日あの場で聞けた人がラッキーだったということで、ここでいちいち書くような野暮なことはやめとこう。

クリスピン・グローヴァーはDIY。まわりに「DIY」を標榜するハードコア・パンクのバンドはたくさんいる。グローヴァー氏のこのDIYパフォーマンスはスケールが違うし比べるのも野暮なのかもしれないけど、ひたすら「タブー」に挑むもう1本の映画、『What Is It?』などは、見た目も音も定型化してしまったそこらのハードコア・パンクバンドなんかとは比べ物にならないくらい、エクストリームな表現をやっている。次いつクリスピン・グローヴァーが日本にやってくるかわからないし、カナザワ映画祭も一応終わってしまったので、次は誰が呼ぶのか知らないけど、映画だろうが音楽だろうが、何かを「表現」する人は、見ておくといい刺激になる映画なんじゃないか。あとは2日目のQ&Aで予告のプレビューをかけてた、IT三部作ではない新作は、もっと一般的な流通にするかもしれないと言ってたので、それも是非見てみたい。しかし次は誰が呼ぶんだろうなあ…。

映画祭期間中の他の映画のことも書こうと思ったけど、また今度にしよう。まあ映画はあんまり見れなかったんだけど…。

18. October 2016 by sats
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