ベオグラードの友人、ゼイリブ、本屋 | 焔と煙霧

ベオグラードの友人、ゼイリブ、本屋

今後の旅程を決めあぐねていたせいもあって、ベオグラードには2週間強滞在した。

ほぼ毎日一緒に散歩したり最高にうまいファラフェル食べたりどこか連れて行ってくれたり家で飯をご馳走してくれたりしたのが、先月一緒にギリシャのビーチでバカンスを過ごしたセルビア人のヤニスである。

彼のバンド、Atentat Na Sluhは先項のイヴァンのレーベルFuck Yogaから、30枚限定の3インチレコードというまったく世に広める気のないフォーマットでリリースされていた(音源はこの項を参照)。
旧ユーゴ/クロアチアのブラックユーモアたっぷりのグラインドコアバンド、Patareniがフェイバリットのヤニスは、ベオグラードの某音楽TV局で働いており(フルタイムではないが)、何度か職場に遊びに行ったところTVで流すプログラムを組んだりしていた。深夜帯は誰も見ていないからと、往年のハードコア・パンクバンドのビデオをこれでもかと数時間流しっぱなしにしている日もあるらしく、ある日はBroken Bonesに始まりDischarge、English DogsなどのUKハードコア、セルビアや旧ユーゴ諸国の古いバンドなどがずらりと並んでいた。日本では考えられない、何と素晴らしい番組だろう! ただあまり反響はないらしいが・・・。
ほぼ毎晩のようにカレメグダン公園に散歩に出かけ、ああでもないこうでもないと色々話した。カレメグダン公園は、サバ川とドナウ川の合流点を見下ろす丘に古代ローマ時代からの要塞が聳える、夜景がとても綺麗な公園である。

やはりこの国でも物価と収入の均衡がまったく取れておらず、収入の半分を家賃に、残りの半分を食費に回したらもう何も残らないと言っていた。その割には街には高級そうなレストランやバーも散見され、それらへは地元の人々がない金をただ浪費しに行くだけであるとヤニスは言う。コーヒー1杯を50ディナール(約41円)で出す古いコーヒー屋には客は一人もおらず、その隣の1杯200ディナール(約166円)の小奇麗な店は満席だったのを見た。地元の人々は皆「お金があること」を見せびらかすために高級な店に足を運ぶ、お金が無いにも関わらずだそうだ。テレビや雑誌が映し出す「高級」な生活に身を重ねたいのだろうか、まあどこでも見られる「セレブ願望」だろうが。
そんな現状を嘆いてか、彼は私にジョン・カーペンターの名作中の名作『ゼイリブ』のバッヂをくれた。Obey、Consume、Watch TV、No Thoughtというわけである。They Live、We Sleep。

さて、ある日彼の友人である、DAZDというベオグラードの何とも形容しがたいクラストバンドのギター/ボーカルであるロマツと一緒に三人で、テラジエ広場周辺の本屋巡りをした。ロマツが昔働いていたという「プラトー・ブックストア」へ行った。


私はこちらのSF作家ゾラン・ジフコヴィッチの『Escher’s Loops』英訳版を購入。唯一英訳が置いてあった本だ。書店の店長らしき女の人が、日本文学のセルビア語訳もあるのよと、あるコーナーに案内してくれた。ギリシャやトルコで三島由紀夫や村上春樹などは見かけたが、ここではそれらに加え、大江健三郎『個人的な体験』や志賀直哉の『暗夜行路』、川端康成『美しさと哀しみと』(篠田正浩監督のこれの映画化はアブストラクト(笑)でとても面白い)、安部公房『砂の女』、井伏鱒二『黒い雨』、夏目漱石『こころ』など、日本文学のいわゆる名作がずらりと並んでいた。黒柳徹子の「トットちゃん」もあった。

次に行った本屋では、ユーゴ時代の1960年代~70年代初めにかけて起こった「Black Wave」という映画のムーブメントについての本を手に入れた。ギリシャにいたときにヤニスが教えてくれたのだが、映画において当時の社会主義政権を批判したり個人としての表現の自由を追求する動きがこのBlack Waveであり、政府に禁止され逮捕されながらも映画を撮り続けていた監督もいたらしい。新たな発見であるが、それらの映画を今観るのはなかなか難しいらしいが、この本を参考に何とか観てみたいと思う。

そんな本屋巡りに連れて行ってくれたロマツの新しいバンド、Gypsy Wizard and the Prophets of Doomはオルガンが入ったオカルト・ロックでかっこいい。レーベルを探しているらしいので興味のある方は是非。

ある日ヤニスが言っていた。「毎月の支払いに怯えるようなこんな生活をしていたら時にはものすごくネガティヴになることだってある。けど何かクリエイティヴなことをやらなくちゃいけない。それをやることによって人間は活動的になると思う。そうやって生きてくしかないと思う。」
自分の生活を省みるいい切欠である。ありがとうヤニス。

20. August 2012 by sats
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