L’Etrange Festival
話が前後するが、ロンドンに行く前にパリでも映画祭がやっていたので通うことにした。
L’Etrange Festival
上映作品を見ると、ベルリンで通ったFantasy Film Festivalと似たような感じ(実際どちらでもかかっていた作品もいくつかあった)の、新作ホラー、サスペンスに混じって旧作もあったり、何より目を引いたのがケネス・アンガーのチョイスでアメリカの古典映画を氏の解説付きでかけたり、氏が最近やっているらしい、ブライアン・バトラーというアメリカのアーティストとの音楽ユニット「Technicolor Skull」のライブであった。これは面白そうである。
『ジャッジ・ドレッド』のリメイク(日本公開はいつ?)や、日本で観れなかった若松孝二の新作『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』、井口昇の『ゾンビアス』や新作の『デッド寿司』、伊藤潤二原作のアニメ化『Gyo: Tokyo Fish Attack』など日本映画も幾つかあったり、他にも見逃している旧作やまったく知らない旧作、新作や、新作ゾンビ映画4本立てオールナイトなど見所がありすぎで困ったが、ロンドン行きや他の都合もあって結局映画は4本、ライブは2プログラム見ることになった。
ちなみに開催場所はForum des Imagesというパリのメトロ4番線のLes Halles駅直結の、超オシャレで近未来的な造りの名画座とでも言うべく会場で、映画によって50席の小さな劇場から500席の大ホールまで様々であった。
Freaks
1932年 アメリカ
監督:Tod Browning
昔DVDで観たことがあったが、ケネス・アンガーのセレクションで解説が付くということで再見。しかしながら氏は20分ほど遅刻して現れ、当時MGMがこんな映画を撮ったことはありえないことで、公開までに時間がかかった云々の情報を3分ほど喋って上映が始まった。ケネス氏は80歳は超えている様だがまだまだ元気なじいちゃんという印象であった。
映画自体は、健常者の高飛車な女が極悪で最後に人工アヒルにされて見世物小屋行きという因果応報が恐ろしい寓話のようなものだが、登場する”Freaks”たちのなんと多種多様なことか。それぞれの過去が語られるわけでもないので、あいつはどんな生活を送っていたのだろうかと想像したくなる。
へんげ
2012年 日本
監督:大畑創
日本で見逃していたものをまさかフランスで観られるとは思ってもいなかったが、本場パリのシネフィル(笑)たちの反応も同時に楽しめて奇異な体験であった。チープな特撮のいたるところで観客は失笑していたが、それはこの映画が日本の自主映画だという前情報がないからなのだろうか(そもそも自主映画のレベルの作品がこの映画祭でかかっていたのはこの映画くらいなのではないかと)。あとは夫がどんな姿になろうともただひたむきに夫を支える妻の姿もあくまで「日本的」なものなのかもしれず、怪物の姿になった夫に妻が「エサ」を与えたあと、その腕に抱かれるシーンですら笑いが起きていた。そこも笑うのかパリジャンパリジェンヌたちよ、と思いながら、主人公たちがフランス人に置き換わったら妻はきっと夫をさっさと捨てて新しい人生を歩むのだろうかと思うと笑えてきた。
God Bless America
2011年 アメリカ
監督:Bobcat Goldthwait
すみません、ベルリンに引き続きこちらでもやっていたのでまた観てしまいました。二度目ともなれば字幕がなくとも会話の内容も大体理解でき、パリの人たちの反応もまたベルリンと同じように拍手までしてしまう楽しみ方だったので余計に楽しめた。殺人を繰り返しながら放浪する二人がフランスに行って農場でもやろうと語るシーンでは場内大爆笑だった。
Eega
2012年 インド
監督:SS Rajamouli
パリのDVD屋を巡っていると必ずと言っていいほどインド映画のコーナーがあった。それくらいこちらではよく観られているのだろうかと思い、英語字幕であったし1本観てみることにした。
2年間思い続けていたツンデレ・キュートなビンドゥがようやく振り向いてくれたその夜、恋敵である富豪スディープに拉致られて殺されてしまう笑顔の青年ナニ。そのナニの魂が近くのEega(ハエ)の卵に乗り移り、ハエはスディープに復讐をする、その過程でビンドゥとも再び出会い、一緒に復讐を・・・。と、これだけの話を2時間半かけてやるわけである。ハエはもちろんCG、これでもかと言わんばかりのCGである。そして惜しむことなく矢継ぎ早に繰り返されるコミカルなシーン。これはさすがに恥ずかしいだろと思うようなことをまったくの逡巡なしにやり切ってくるのと、もちろん歌も踊りもある、全編に渡る妙過ぎるポジティブなエナジーにただただ圧倒されてあっという間の2時間半であった。インド映画をもっと観る必要がありそうであるが、はまったら抜け出せないだろうきっと。
↓ 件の歌と踊りのシーン!
さて、ライブのプログラムとして行われたのが、7 Weeksというフランスのバンドが『Dead of Night (『Deathdream』という題名でもあるらしい)』という映画の上映に合わせてその自作サントラ的なものの演奏をするという”7 Weeks Plays “Dead of Night/Deathdream””というプログラムと、前述したケネス・アンガーの「Technicolor Skull」の2つの抱き合わせプログラムであった。
7 Weeksというバンドは初めて聞いたが、もろにQueens of the Stone Ageのようなちょっとストナーがかったロックで、ベースがキーボードをやったりその間ギターボーカルがベースを弾いたりする4人組であった。なぜこの映画を選んだのか知らないが、映画自体は1974年のカナダ映画で、特殊メイクのトム・サビーニの初期の作品でもあるらしい。「ベトナム戦争で死んでしまった息子が帰ってきた、ゾンビとして!」というプロットで別にそんなに面白いわけではなかったが、7 Weeksにとってはっきっとかけがえのない作品なのだろう。であるのなら、上映用のメディアにもう少し気を配って、最低でもコマ落ちすることのないようにすべきだと思ったが。
さて休憩と転換をはさんでTechnicolor Skullの登場だが、『Lucifer Rising』を流しながらケネス氏はテルミンを、ブライアン・バトラーはノイズギターとキーボードを鳴らすというパフォーマンス。冒頭ケネス氏のテルミンが鳴らなかったので仕切り直し、再スタートとなった後はケネス氏のうねうねした動きを見るのが、何か奇跡的な出来事が目の前で起きているようにも感じたが、音のクオリティが決していいとは言えず、サンプラーからの低音はよく聞こえるのにブライアン氏のギターがほとんど聞こえなかったりと残念であった。本人も不本意な様子だった。
パフォーマンスは『Lucifer Rising』のみで、後は以下の作品が流れた。
Inauguration of the Pleasure Dome(1954) by Kenneth Anger
Brush of Baphomet(2009) by Kenneth Anger
Night of Pan(2009) by Brian Butler
Union of Opposites(2012) by Brian Butler
8時に開始し終了が0時という2本立て。終わってパリの小便臭いメトロに乗って帰った。