伯爵

日々の賃金労働で忙殺武士道状態、もう観てから大分経つけど、スキをついて、やっぱり書いておきたいことを・・・。

黒沢清の新作。

以下なるべくネタバレ含まないようにしますが、やっぱり含みます。

期待を膨らませてチャリに乗りながら平日早朝の新宿へ行ったら(バルト9)、なんと客は10人ほど。封切り5日目くらいだったから、まあ朝でもある程度はいるんだろなあと思ったが、実のところは田舎のシネコン状態で複雑な心境。東京の満員映画館にいつまで経っても慣れない身には、空いているのはありがたいことだが、この規模の黒沢清の映画でまた客が入らなかったら次作がまた遠のくのだろうかなどと心配してしまうのは、ファンの微妙な心境であります。テレビなどで宣伝はしてたらしいが(もちろん綾瀬はるかと佐藤健のことばっからしい。そういやポスターとかも「監督:黒沢清」ってわかりにくいんだよね。前面に出したくない情報だったのだろうか)、その二人の俳優目当てで劇場に足を運ぶ層には効果なかったのかと思いつつ。
この映画が好きか嫌いかと聞かれれば、何とも答えようのない映画だというのが観終わっての正直な気持ちだったが、後から反芻するうちに、やっぱ何だかんだであくまで「黒沢清っぽい映画」だったのも確かで、後述するがその映像を楽しめたのは間違いないなと思うようになった。ただ、中盤に起こる意識不明者の入れ替わりで映画のテンポがガラっと変わったようで、前半の中途半端でちょっと安っぽい死体の登場や佐藤健のあの何というか顔立ち自体に馴染めず、ちょっとつまんねえなと正直思ったところもあった。綾瀬はるかの「ここは私の意識の中よ」とか紙に書いた銃の絵から銃を取り出してオダギリジョーや染谷将太を撃っちゃうシーンはとてもよかったのだけど。でもまあ後半のある種何でもありの雑然さが、ああこの規模でも清先生はやっちゃってるんだなあと、ファンとしてはああいうのがやっぱりいいんです。柵から落ちて起き上がれずにうずくまる綾瀬はるか(これは繰り返し見たい名シーン)とか、直後に舟に乗った佐藤が引き返してその横で無機質に海に飛び込んだモリオが、ちょっと経ってから首長竜として実際に登場してしまったたときなどは本当にワクワクした。廃墟のリゾートランドでの首長竜との戦いはもう『グエムル』そのまんまだったけど、黒沢清の映画で怪獣(じゃなくて恐竜か)が見られるなんてもうそれで満足だったり。怪しすぎる中谷美紀はそのわざとらしさが良かったり、わざとらしく風が吹いたところもまた良かったり。

ちょっと真面目な私観を述べれば、あの飛古根島のリゾートランドの廃墟というのは、『叫』の東京湾であり、モリオは葉月里緒菜であった。『叫』で描かれた、「忘れ去られた実体のみが感じる孤独と悲しみ」というモチーフがここでも繰り返されているのではないだろうか。ついでに311以降ではこの廃墟こそがそのモチーフの象徴にもなりうるわけで、これは明らかな2013年の日本の映画でもある。また、『大いなる幻影』では、人はそもそも完全に理解しあえない、というようなことが描かれていたと思うが、この映画のラストはそれを踏まえながらも一歩踏み込んで、相互の完全な理解は難しいが、それでも二人で乗り越えられるものがある、という黒沢清のヒューマニストな一面が出たのではないのだろうかと。

そう言えば劇中に出てきた首長竜の化石、佐藤健がそこに至るまでのあの建物の内装と共に、どっかで見たなあと思っていたら、上野の国立科学博物館だった。先月この「江戸人展」というのに出かけ、江戸時代の髑髏をたくさん見てきた。ちなみに日本人の祖先はどこから来たか、というデータがDNAレベルで分析された展示があったので、日本は単一民族国家だと思っているお目出たき人は一度行って確認してみるといいのかもしれない。現代の物質至上主義社会に警鐘を鳴らすことがまるでこの施設の使命でもあるかのような、妙な気負いを感じる各コメントも面白い博物館だった。

江戸の骸骨

さて、微妙な余韻を残したラストが終わって(一応ハッピーエンドのようだけど、穿つとそれも暗黒に見えてしまう)エンドロールになったとたん、だいぶカオティックなミスチルが流れ出すのはまったくの興醒めであった。こればっかりは大きい予算でやったら仕方ないことなのかもしれないが、ほんと嫌だなあああいうのは。一気にムードをぶち壊すというか、完全な蛇足だよ。これも「メジャーは作家の意志が反映しにくい」ということなんだろうけど、ああいうのを体験する度に残念に思う。仕方ないのかもしれないけど、あれだけはねえ・・・。

というわけで、飛んだ映画の他にも新作が控えてるそうなので、またそれを楽しみにしばらく生き延びるとしますか。新文芸座のオールナイトも行きたいところ・・・。

26. June 2013 by sats
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