FATUM インタビュー

遂にツアー開始! EL ZINE vol.31に掲載してもらった、Fatumのインタビュー全編をこちらにも載せておきます。



8月末から9月頭にかけて来日予定のロシア・モスクワのメタリック・クラスト・バンド、FATUM(ファータム)。局地的に話題沸騰中のバンドですが、今回は“Rise of Crust”を掲げるバンドのイメージや音楽性についてはもちろんのこと、あまり知られていないロシアの現行のパンクシーンの話から、「反プーチンデモ」の実情やウクライナ紛争など、現在のロシアを取り巻く政治的状況や、ロシア現代思想にいたるまで、幅広く答えてもらいました。

2018年3月~4月、メールにて


■まず最初に、FATUMの結成について教えてください。FATUMはいつ始まった?
Tsyrik(以下T): インタビューよろしく! FATUMが始まったのは10年位前で、2008年のはじめ頃だったと思うけど、みんなそれまでやってたバンドが嫌になって、音楽的にも歌詞としても、もっとやんちゃでアグレッシヴなバンドをやろうとしたのが始まりだね。FATUMはハードコア・パンクとメタルを半々にした音楽をモスクワでやり始めた最初のバンドだよ。
バンドのメンバーは始まった頃からは変わったけど、2009年から今のラインナップだ。俺がギター、ボーカルはPaul、ベースがR-dose、Tsunarが電撃ドラムだね。
みんな地元でいろんなバンドをやってきて、今も掛け持ちしてるメンバーもいるよ。TsunarはREPTILOIDS、PHENOLHOUSEや他のプロジェクトでも叩いてきたし、俺はFURTHER CHARGES (80’s UKスタイルのパンクロック )、VENDEL (オールドスクールなエピック・メタル)とかをやってるよ。

■FATUMの音楽性を説明すると?
T: Total Crust Mayhemだな! それで十分だろ。
Paul(以下P): VENOM + EXPLOITED。

■FATUMを始める時には、やりたい音楽の方向性は決まってた?
T: ああ、もう決まってたね。核となったアイデアは、音楽的にパンクとメタルをミックスすること。ただスキルなんてものはまったくなくて、それまで各々がやってきたパンクバンドで得た基本的な演奏技術に、たくさんのメタルやハードコア・パンクのクラシックなバンドの影響を受けて、こういった音楽性にしたんだ。ノイズと安い酒にパワーを得て、始めから荒くて獰猛な方法でやりたい音楽を具現化していったんだ。
P: バンドの最初期は、オールドスクールなブラックメタルにパンクを足して、「死んだ神々の気まぐれにより 血は流され続けてきた」みたいな歌詞を歌ってたんだよ。ただその頃も今も、音楽的にも美学としても影響を受けたものは変わってないけどね。それからしばらくして、「クラシック」なクラストをプレイするようになったんだ。ただ叙事詩的に現代社会の暗部を歌うために、神話的なものや、歴史の審美性からは影響を受け続けているよ。

■現在のところの最新アルバム「Life Dungeons」(2015年)では、ギターの刻みや速いビートなど、よりスラッシュメタルっぽいアプローチの曲が増えているけど、このアルバムを作る時に何かそういったアイデアはあった?
T: 「Time Passes to the Dark」(2012年)をリリースしてから、新曲がたくさんできたんだけど、特に「メタル化」するような特別なアイデアがあったわけじゃない。メタルっぽさは常にFATUMの音楽の一部だったし。でも俺個人としては、FATUMの曲は全部ハードコア・パンクだと言うけどね。少しずつ変化をつけながら、やりたいことを続けてきただけだよ。続けるうちに俺たちの演奏がうまくなったから、よりメタリックになったと言われるのかもね。途中でボーカルが変わったのも、バンドの音楽性に大きく影響したな。
「Life Dungeons」のレコーディングは、実はなかなか大変だったんだ。Paulは当時サンクトペテルブルクに住んでて、他の3人はモスクワにいた。俺はそのころ住む場所がなくて、そのせいで生活も荒れてて、レコーディング中も泥酔してたり、とにかくグダグダだったんだ。バンドにとってもあまりいい時期じゃなかったから、自分たちが本当にやりたいことを考え直して、それを追求したんだ。何とかそれがうまくいったと思うけどね。このアルバムの曲は速くて激しいのが多いけど、これが俺たちが感じていた表現だったんだ。メタルとかそういうのにどっぷりハマろうなんてことは思ったこともないな。ただ自分たちのやりたいことをやってるだけだよ。

Life Dungeons (2015年)

Life Dungeons (2015年)

■FATUMのアートワークはどれもとても「クラスト」的で、ケルトやペイガンの模様なども使ってるけど、アートワークの着想はどこから? スラヴの神話や伝統からの影響はある?
T: 子供のころから、古代や中世の歴史、ゲルマンやスラヴ、初期のケルトの歴史や文化、神話、あとはその壮大で勇壮な詩が好きだったんだ。合わせてそういったテーマのイラストや絵画も大好きで、これまでずっと、いろんなところから関連する絵やイラストを探してきたよ。少しあとになって、いわゆるクラシックなクラストのアートワークに衝撃を受けたね(DEVIATED INSTINCTのミッドは最高!!!)。そういったアートワークを手に取ると、今でも大きなインスピレーションを受けるんだ。だから自分たちのアートワークへの影響もかなりデカいね。FATUMのアートワークは、今日の生について、古代の厳格なイメージを使った寓喩でもあるんだけど、そういったインスピレーションに自分のアイデアを足して作っているんだ。全体の主題としては、「生と死のはざまの探求」のようなものだけど、バンドの歌詞ともリンクしてるよ。


■日本のパンクスはロシアのハードコア・パンクのシーンについてあまり知らないと思うから、基本的なことを教えて。普段どんなバンドとライブをやるかとか、モスクワに限らずどんなバンドがいるかとか。あとライブはどんな場所でやってるかとか。スクワットみたいな場所はある?
T: 地元モスクワのシーンには特別な歴史があるよ。ルーツはソ連の終わりが近づいてきた80年代だね。90年代から2000年代にかけても、様々なタイプのハードコアバンドやパンクロックバンドが現れては消えていったよ。ソ連時代に生まれたものだからなのかもしれないけど、どのバンドもちょっと変で、個性があったよ。
現在のロシアのハードコア・パンクシーンは多種多様で面白いと思うよ。昔からやってるかっこいいバンドもまだ活動してて、毎月ライブをやってるし。モスクワやサンクトペテルブルク(ここのシーンは素晴らしいよ)のような大都市だけでなく、地方の小さな町にもバンドはいるね。モスクワにはいつもパンクやメタルのライブをやってるクラブがいくつかある。スクワットを作ろうと試みた地域もあったけど、今のロシア政府の政策によって、すべて警察に排除されたね。
よく一緒にライブをやったりする仲のいいバンドをいくつか挙げると:
DUKE NUKEMはサンクトペテルブルクのバンドで、TANKとDEATH SIDEやPOISON ARTSのようなBurning Spiritsハードコアを混ぜたような音。
DISTRESSはサンクトペテルブルクのよく知られたD-beatバンド。活動歴も長く、今も精力的にやってるバンドの一つだね。あと俺たちの最上の飲み友達でもあるんだ(笑)。最新のEPをチェックしてくれ!
モスクワのREPTILOIDSは、残念ながら最近解散しちゃったけど、強烈なロウ・ハードコア・パンクだよ。EPが出てるから聞いてみて。本当にヤバいから。
REPRESSION ATTACKはリャザンのバンドで、地獄の底からやってきたようなオールドスクールなステンチコアだ。アルバムが1枚と、シングルが2枚くらい出てるはず。
KARZERはこれもサンクトペテルブルクのバンドで、サイケデリックなステンチコア。本当に独特な音で、カセットが出てるよ。
さっき名前が出たけど、FURTHER CHARGESはモスクワと南部ヴォロネジのバンドで、UK82スタイルのアングリーなパンクロック。去年デモテープが出たんだ。俺が入ったのは2016年で、前のギタリスト、凄く仲もよかったんだけど、彼が亡くなってしまって、それで加入したんだ。
CHAOSBRINGERはロシアのBOLT THROWERだね。最近アルバムが出たよ。
他にも、今はもう活動してないけど、素晴らしい音源を残したバンドもあるから紹介しておくよ。
BLOODSUCKERS(サンクトペテルブルク)は KAAOSスタイルのロウ・ハードコア・パンク。
UNBROKEN BONES(イジェフスク)は、以前EL ZINEにインタビューが載ったから知ってる人もいるだろうけど、80年代のUKハードコアとUSハードコアが合体したような、素晴らしいバンドだよ。
SHITWORLDはモスクワのバンドで、DISCARDやASOCIALみたいなスウェディッシュ・スタイルのロウ・パンクだね。
たぶん言い忘れてるバンドもいるけど、今のロシアのハードコア・パンクシーンを知るには、とりあえず今挙げたバンドをチェックしてみて。

■FATUMのメンバーは政治的な活動には参加してる? 一般的なニュースやメディアで知る限り、2011年12月の下院選挙に端を発した大規模なデモ以来、プーチン政権に対するデモが随時起こっているようだけど。2014年にはクリミアへの軍事侵攻があったし、ロシアをめぐる政治的な出来事は、ここ最近は何かしら起こっているようにも思えるし。これについて何か思うことは? アナキストやパンクスはこれらのデモに参加してる? それとも「リベラル」が主導しているだけ?
(と、この質問を書いている間に、プーチンの大統領再選が「正式」に決まったみたい…。)

T: もっと若かった頃は、アナキストの行動や反戦運動、動物の権利の活動なんかに参加してたよ。そういった活動に参加することが、俺たちの生活の大きな部分を占めてたんだ。参加してるのはみんなハードコア・パンクのシーンの奴らだったし、現代社会が毒されてしまったものをすべて否定する、という立場だったんだ。2000年代の中盤までは、地元のシーンはとてもポリティカルだったよ。道を歩けばナチ・スキンズがウヨウヨいるし、警察はあらゆる社会的弱者に対して途轍もなく暴力的だったから、大変な時期だったけど、忘れられない瞬間もたくさんあったね。俺たちも真面目だったっていうのもあるけど、まあとんでもない時代だったよ。大都市では暴力沙汰が減って、事態はある種膠着したけど、自活するしかない地方の町では、まだ危険な状況は続いてる。
時が経って、個人的な問題とか、他の活動家との不理解とか、意見の相違とか、そういういろんな理由が出てきて、俺たちはもっと音楽に集中するようになったんだ。怒りとか、嫌な出来事や経験を、全部音楽にぶち込んでね。だから昔と比べたら今は活動家というわけじゃないけど、昔の経験や考えは今でも信じてるし、それを今はバンドの曲や歌詞として表現してるってことだね。
今の地元の左翼運動については、たくさんの活動家が参加してるけど、大きな変化を起こすには全然足りていない。ロシア政府は、そのイデオロギーや政策に反対する人たちに対しては、マジで容赦ないからね。でもそんな政府に順応しない人たちは、今も確かにいるよ。

■アクティビズムでの内輪モメは、残念ながらやっぱりどこの国でもあるよね。そういった活動に参加してたときは、クロポトキンやバクーニンは読んだ? アナキストの活動、政治的な行動に興味を持ったり、参加する際にはまず参照すると思うけど、特に彼らはロシア出身の重要なアナキスト思想家だから、地元ではどのように理解されてるのかなと思って。
T: バクーニンとクロポトキンは、世界中のアナキストの運動に大きな遺産を残したよね。だから彼らの基本的な著作は、運動に深く関わる人たちやその思想に沿って生きていく人たちにとっては、馴染み深いものだと思うよ。俺自身も何度か読んではみたんだけど、16歳か17歳の頃だったから、完璧に理解できたとは言えないな。若いパンクスにとってはちょっと難しすぎるのかもね(笑)。だから当時の俺としては、そういったアナキズムのバイブルみたいなものよりも、CONFLICTやCRUCIFIXの歌詞の方がわかりやすくて、もっと身近なことだと思えたね。

■確かにサっと読んでスっと理解できるものでもないよね…。
現在のロシアの状況については?

T: 今は「保守」イデオロギーとともに、強力な独裁体制が敷かれていて、それにそぐわないものや、反抗したり、反国家を信奉する人々に対しては、権力はまったく容赦しない。言論の自由や選択の自由は脅威にさらされてるし、その傾向が強まっているよ。それ以外の政治的な「対抗勢力」ってのも完全なまやかしで、人々をもっと盲目的にして分裂させ、お互いを理解できないようにさせてるだけだ。メディアによるバカで冷酷なプロパガンダや、西側の国によるロシア人へのプロパガンダも同様だね。そのせいで事はもっとややこしくなってるし、この状況を利するのは権力者だけで、人々はそのドツボにはめられていることすら気付かずに、ただ生活で手一杯だ。すべてがクソみたいに見え透いててバカバカしい。実際に何が起きているか、誰も文句も言わないし、本当に恐ろしい状況さ。俺たちの未来も危ないだろうな。

P: このプーチンの選挙等に反対する一連のデモは、全部茶番だね。ロシアには、反対勢力なんてものはまったくないんだ。もう今となっては、それが現れる可能性すらない。実際にデモをやってるのは「リベラル」の連中だけで、ただ自分たちのことを宣伝してさらに金を得ようとしてるだけだし。システムは人々をカゴの中に閉じ込めて、自分たちの生活の問題で手一杯の状態にしてるんだ。個人的に思うのは、唯一の抗議の方法というのは、自分の人生において妥協をせず、本当に必要なものを見極め、奴らの倒錯したモラルに騙されたり、買収されないようにすることしかないんじゃないかな。かつてはパンクスによるデモもあったけど、警察にボコボコにされて半殺しにされたり、あと自然保護の活動家が、道路建設による森林伐採に反対する抗議行動を行ったときには、犯罪組織を動員されての「運動つぶし」に遭ったこともある。そのときはテレビで短く、「サッカーファンが乱闘騒ぎを起こしました」みたいに報道されていた。もちろん奴らは、そんな抗議行動があることすら一般の人々に知られたくないからさ。
ウクライナでの問題に関しては、デモというのは起きてないね。ただ東ウクライナの国境・ドンバスでは激しい闘争が行われている。ロシアのバカどもがウクライナの軍に入隊して、ただ人殺しを楽しむために軍事行動に参加してるんだ。だからアンチ・ファシストの活動家がそこに行ってウクライナ軍に対して戦ったりしたんだ。そういう軍隊のバカどもがより極悪になって、血に飢えて戻ってこないようにね。俺たちの”Life Lost”という曲は、そのことについて歌ってるよ。

■ドンバスの状況は複雑で正直よくわからなくて、そもそも西側メディアの情報が薄く入ってくるだけの日本のメディアだと、「ウクライナは民主化を求め、EUに加盟したい。アメリカもそれを支持している」、「でもロシアがそれを邪魔する」みたいな報道のされ方が多かったんだけど、もう少し詳しく教えてくれる?
T: ウクライナの「革命」が起きた時、ロシア系ウクライナ人がたくさん住んでいるウクライナ東部で軍事行動が起き、ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国という、ウクライナ政府が呼ぶところの「反政府組織」とウクライナ政府の間で戦闘が起きたんだ。そこではウクライナ軍による市民の虐殺があり、紛争が起きた最初の数ヶ月は特にひどかった。ウクライナ軍はそれらの東の「独立国」に大規模な砲撃を行い、親ロシア派の軍隊はウクライナ軍に対して反撃し、今も戦闘は続いてる。
ウクライナの「革命」には、たくさんの極右ネオナチが参加し、革命の大きな力となったことはよく言われている。そいつらはナチなんだけど、自分たちの軍隊を創設し、それをウクライナ政府が公式に支援している。アゾフ連隊(注:ハーケンクロイツを掲げたり、ナチスのSS師団のひとつ、「ダス・ライヒ」の「人狼」マークを模した部隊章を使用している)とかのことだね。こいつらが東部での紛争時に、ウクライナ側の前線にいて、そのウクライナのナチ軍隊にロシアの極右のバカたちも大勢参加し、親ロシアの反政府組織と戦闘してるってわけだ。Paulが言ってる「ロシアのバカども」ってのはこいつらのことだよ。そいつらはロシアでは刑務所にいたり、街頭で人殺しを行ってたような連中だ。それでウクライナに引っ越して、今やウクライナの警備隊となったそのアゾフ連隊や、ウクライナの警察に入って身を立てたってわけだ。一方で、ロシアのアンチファやその他の人々が、親ロシアの「反政府組織」に参加し、ウクライナのナチ軍隊と戦った。俺が知ってるのはこれくらいだ。ただ政治的なプロパガンダがあふれてるから、一連の出来事を客観的に見るのはなかなか難しい。西側メディアもロシアのメディアも、それぞれ自分たちの利益のために、まったく別の状況を伝えているし。ただ言えるのは、死んでる、殺されてるのは市民だということだ。住む場所を破壊され、ただ殺されてるんだよ。完全に狂った暴力が横行してるんだ。Paulが言ったように、俺たちの曲“Life Lost”や“Death Holder“は、この最悪な戦争犯罪を反映してできた曲さ。

■なるほど…。ロシアの極右がただ人殺しのためにウクライナ軍に参加して、ロシア系の人々を殺す、っていう図式はなかなか簡単には想像できない状況だね…。
最近ある雑誌が現在のロシア現代思想についての特集を組んでて読んだんだけど(「ゲンロン6 ロシア現代思想I」)、その中に、アレクサンドル・ドゥーギンの『〈第四の道〉――〈第四の政治理論〉序説』の一部を抜粋したものが載ってました。ドゥーギンは国家ボリシェヴィキ党に参加していた過去があり、その思想はイタリアのネオナチ/オカルト哲学者ユリウス・エヴォラや、フランスの神秘思想家ルネ・ゲノンに影響を受けていると言われていて、またプーチンにも近く、「ネオペイガニズム」(スラヴ神話などに関連したペイガニズムで、現代社会の「進歩」を批判し、人々をもっとファシスト的な方向へ導くものだそう)や、「ネオユーラシア主義」を経由した帝国的ナショナリズム、ファシスト的な思想を持った人物だそうで。またその雑誌には、今日のロシア現代思想は、リベラリズム、コミュニズム、ナショナリズムと3つに分かれており、それぞれが別の世界のように、お互いが関わり合うことはない、とも書いてあったんだけど、このあたり、現在のロシアの現代思想や政治思想の状況について思うことは?

P: ドゥーギンについては、今は国家ボルシェビキ党とは無関係で、ネオペイガニズムには興味を持ったことはないんじゃないかな。彼はロシア正教徒で、新プラトン主義を我流に理解している。そこまで彼の思想に詳しいわけじゃないけど、彼が主張する「伝統主義」のコンセプトについては知ってるよ。それは新プラトン主義哲学のまた新しい解釈で、現代世界は精神的に破滅しているとして批判していた。彼が最悪なのは、彼の言う「精神的破滅」に対抗する方法というのが、強力な権力を持った、キリスト教的「天の王国」を統合する皇帝――哲学者が支配する国家の建設、だと主張したことだね。プラトンの『国家』(ポリテイア)や、古代インドのカースト制社会のようなね。彼らの思想は、現実世界を天の王国と無理矢理併合するような、形而上的な構造を持った社会を創造することなんだ。彼はユリウス・エヴォラよりも、ルネ・ゲノン、特にゲノンの『世界の終末―現代世界の危機』に影響を受けている。長い間彼はプーチンには敵対していたけど、後に、ドゥーギンの考える保守革命の第一歩となる帝国主義体制のリーダーになるには、プーチンには十分な素質があると判断して、プーチンを支持し始めた。でもドゥーギンはロシアではあまり人気はないね。彼は時には、「神はインターネットにお怒りだ」とか「ヒゲの無い男どもは全員ホモか変態だ」とか、完全に狂ったことを言ってるからね(笑)。人々は彼のことを独りよがりの誇大妄想狂だと思ってるよ。だからドゥーギンは、大学教授は政治に深く介入できないという理由もあって、モスクワ大学での職を失ったしね。まあそういうことだよ。
今日のロシアの思想や哲学では、あまり興味をそそるものはないね。政治思想はその通りで、リベラリズム、コミュニズム、ナショナリズムに完全に分かれてるよ。コミュニズムとナショナリズムは常にお互いに過激で、建設的な対話ってのは無理だろうな。現在見られる人間の荒廃は、人間性を伴った教育の瓦解によるものと、ソ連が崩壊し、「鉄のカーテン」が消滅して、人々が消費の自由以外に興味がなくなってしまったことによるものだと思うよ。

■なるほど、ドゥーギンが現地ではそのように見られてるというのは勉強になったよ。
ところで現在Paulが信奉、もしくは共鳴しているような思想はある? あとコミュニズムが現在のロシアでどのように見られているかや、例えば現在の「第一世界」において、アメリカならバーニー・サンダースが、イギリスなら労働党のジェレミー・コービンが、それぞれ社会主義者やマルクス主義者とされていて、コミュニズムや関連する左翼的思想は、「現実的」な思想として再考されている動きもあるけど、そのへんはどう思う?

P: 政治的な手段で生活が良くなるなんてことには、希望もないし、ただフラストレーションしか感じない。俺達みたいなパンクスのことは誰も必要としてないし、気にもされない。普通の人たちは俺たちのことを、ただいつまでも青春時代にハマって抜け出せない連中だと思ってるだろうな。たとえ周りの人たちと良い関係が築けたとしても、俺たちとは全然違うタイプの人たちだし、心の中に抱いている夢ももちろん全然違う。多くの人は、未だにパンクスのことを、気が狂ったサタニストだと思ってる。でもそれはただ単に、道徳観の基礎がそもそも違うからなんだろう。俺はいかなる政治運動を信用もしないし共鳴もできないよ。そのいずれにとっても、俺たちは無機的すぎて意味がないだろうからね。
今のロシアにおけるコミュニズムは、ある種のレトロなものとして考えられてるよ。おばあさんたちのためのようなね。昔育ってきたソ連時代の生活にノスタルジーを感じたりする人たちだね。ソ連とロシア連邦はいろんな点で全然違う国だし、そういった人たちはずっと信じてきたもの、すなわちソ連という理想的な国のイメージが、崩れ、本当の顔がさらけ出されたことで、すべて失ってしまったんだ。
「第一世界」のコミュニストについては、良いか悪いかは何とも言えないな。現実問題として、何の意味もないと思う。人間の考え方を、いくつかの対抗軸で分類して対立させること自体が、「精神の冷戦(Mental cold war)」状態だからね…。それか敗北を感じた人々による社会の譫妄状態なのかもしれない。とにかく俺たちは、いかにして本当の「人間」になるかを考えるべきだね、クソみたいになるんじゃなくて。

■なるほど、思想云々よりも、真に人間であることはどういうことか、ということを考えてるわけだ。ちょっと長くなったので、バンドの話に戻りましょう。FATUMは西ヨーロッパも何度かツアーしてるけど、そういったツアーで、例えば現地のパンクスと会ったりして感じたことを教えて。私は何年か前にヨーロッパを東から西まで旅したんだけど、「ヨーロッパ」と一言で言っても、ギリシャや旧ユーゴスラビアのような「東」とか「南」や、ドイツやイギリスなんかの「西」では、環境も雰囲気も随分違うなと思ったけど。
T: ヨーロッパツアーはこれまで何回かやったけど、毎回最高で、忘れられない瞬間とか、最高におかしなことをいつも経験してるよ。ツアーは音源を作るのと同じくらい重要なことだね。個人的にはツアーってのは、人生で起こりうる一番最高のことだと思ってるよ。
最初に海外でライブをやり始めたときは、ロシアとはまったく違う生活を各地で見たよ。でも別に自分の国の生活と比べる必要なんかないんだ。だってそれは完全に違う世界で、ものの考え方も違うし、生活スタイルやその地でできること、地元の習慣とかあらゆる特徴なんかも全然違うものだからね。一つ言えるのは、ロシアでライブをやるよりも、ヨーロッパをツアーしたほうが生産的ではあるね。ハコも人も大体最高だし、ハコのPAとか機材もレベルが高いし。だからヨーロッパでのライブはだいたいいつも素晴らしいよ。DIYパンク文化も、ロシアではまだ新しくてちょっと変わってるけど、「西」では古い歴史があるしね。ただこれだけは認めるけど、ロシアでのライブはヨーロッパよりももっと狂ってて、ワイルドでパワフルだね。どのライブでもみんな狂ったようにポゴってるよ。だからもっとたくさんのバンドがロシアに来たらいいと思うよ。ロシアに来たバンドは、みんなこの地で受けるサポートに衝撃を受けて帰ってくよ。まあとにかくツアー生活ってのは最高だし、実現するのはなかなか大変だし、いつも困難がつきまとうけど、それに代えても価値あるものだと思うよ。

■地元モスクワでは、DISCHARGEやANTISECT、MOB 47や、最近だと人気のPOWER TRIPなんかともライブをやってるけど、これらのバンドとのライブはどうだった?
T: 彼らとのライブは最高だったね。特にDISCHARGEとのライブは、俺にとっては最高に意味のあるものだったね。そのライブは、FATUMの今のメンバーでの最初のライブで、すげー緊張して心臓はバクバクで、心を落ち着かせるのが大変だったよ。でも結果的にいいライブができたし、DISCHARGEのメンバーも最高だったね。ラットが完全に酔っ払うまで、一緒にロシアのウォッカを飲んだんだ(笑)。素晴らしい夜だったよ。
去年の夏にはINSTINCT OF SURVIVALとミニツアーをやったけど、これはまさに「RISE OF CRUST」だったね。彼らとは、「別の母親から生まれた義兄弟」って感じで、ここ数年でも一番最高のライブとパーティーだったよ。

■アルバム「Life Dungeons」の最後の曲、“The Man behind the Sun”では、日本陸軍が戦時中に率いた恥ずべき悪名高い機関、「731部隊」について歌ってるけど、これはどのように着想を得た?
T: 俺はこの731部隊のおぞましい行為にとても興味があって、文献を読んで詳細を知って、相当の衝撃を受けたんだ。だからこの曲を書いた。タイトルは同名の映画(邦題:『黒い太陽 七三一』)から取ったんだ。あの映画で描かれた、731部隊が戦時中に中国で行ったことは、とてもショッキングで恐ろしいことだよ。

■あの映画の英語版のタイトルだったんだ。まあ「そんな事実なかった」と言っている歴史修正主義者は相変わらずいるんだけどね…。
普段バンド以外は何してる?

T: 他のバンドの活動だよ! バンドに全部時間を持ってかれてるね。あとは飲んでバカ騒ぎをすることは俺たちの重要な任務だな(笑)。あとこの国じゃ失業者に対する補償なんてないから、イヤでもくそったれの仕事に時間を割かれる。最悪だよ。

■この前、ロシアの映画監督、アンドレイ・ズビャギンツェフの新作『ラブレス』を観たんだけど、現代人の孤独が人間性を侵食しているような、とても暗くて悲しい話だったんだけど、観た? ロシアの現実の生活ってこんな感じなのかな、と疑問にも思ったけど。
T: 俺は観てないんだけど、うちのドラマーが観たらしく、かなり正直にロシアの現実を描いてるって言ってたよ。

■日本一般に対するイメージは? 好きなバンドとかはいる?
T: 日本のシーンやバンドは大好きだよ。ハードコア・パンクのバンドが好きだけど、メタルもだね。他のジャンルも聞くし。
俺の好きなのは、DEATH SIDE、POISON ARTS、G.I.S.M.、RANDY UCHIDA GROUP、CROW、THE COMES、WARHEAD、ZADKIEL、SABBAT、SOCIETIC DEATH SLAUGHTER、DISCLOSE、CONTRAST ATTITUDE、KURO、VIRUS、XENOLITH OGER、44 MAGNUM、ZOE、鉄アレイ、FRAMTID、ZOUO、S.O.B.、BASTARD、SLANG、REALITY CRISIS、EFFIGY、LIP CREAM、FINAL BOMBS、CONFUSE、THE SEXUAL…他にもまだまだあるよ!
最近のシーンはまた違って、もっと激しいバンドもいるね。AXEWIELD、ISTERISMO、AKKA、ZAY、DISTURDとかね。よく聞くのは、どのバンドも激しくてとてもパワフルだってことだね。日本ツアーでこういったバンドやシーンが見れるのは最高に幸せだよ。

■では最後に一言。日本ツアーで何かしたいことはある?
T: ZAYとの日本ツアーは本当に楽しみだ! 日本に行けるなんて、俺たちの人生で最高に楽しい瞬間になるのは間違いないね。超楽しみにしてるし、ほんと待ちきれないよ。待ってるこの間も日本への興味は尽きないし、既にとっても幸せだね!!
日本のパンクスへ、もうすぐ会えるのを楽しみにしてるよ! サトシ、インタビューありがとう! モスクワより愛を込めて、カンパイ!

26. August 2018 by sats
Categories: el zine, interviews, music | Tags: , , , | Leave a comment

ニューヨーク2018〈後編〉

EL ZINE vol.31に掲載してもらった、ニューヨーク紀行文の後編です(前編はこちら)


ニューヨーク2018 〈後編〉

3月に行っていろいろと見てきた久々のニューヨーク。前号掲載の前編では、主にレコード屋、見たライブなどに触れましたが、この後編では、その中で何回も出てきた「ジェントリフィケーション」とは何かを、日本で実際に起こっている事例も交えながら、噛み砕いていきたいと思います。あんまりニューヨークのことについて書いていませんけど…。

——————————————————

ジェントリフィケーションとは

今日現在、世界の大都市、じゃなくてもいいが、いわゆる「第一世界」の「都市」について何かを語ろうとすれば、「ジェントリフィケーション」という言葉は避けて通れない。来日するアメリカや西欧のバンドは、口を開けばジェントリフィケーションによっていかに生活が逼迫しているかを語るし(でもまあツアーに出られ、日本に来れてるんだから、そこまで切羽詰まってるわけじゃないとは思うが。旅をすることは、「先進国」にたまたま住んでて、「それなり」の金がある人の特権だということでもある)、これまでEL ZINEに取り上げられたバンドでも、この言葉を口にしていた海外のバンドはいただろう(前号にインタビューが掲載されていた、スペインはマドリッドのバンド、OBEDIENCIAのインタビューでも語られていた)。その前号に掲載されたこの拙文の前編では、特に何の断りもなく使ったが、この後編ではまず、ジェントリフィケーションとは何か、から話を進めたいと思う。

ジェントリフィケーション(gentrification)の日本語訳は、「(下層住宅地の)高級化」とされる場合が多い。ただ、それだけ聞いてもよくわからない。「高級化する」というと、聞こえがいいと思う人もいるかもしれない。「高級化」のプロセスはいろいろあるみたいなので一概には言えないが、簡単に説明すると、貧困層が住む地域に、金持ちやヒップスターたちが流入したり投資をすることで、その地域の「価格」が上がり、もともとそこに住んでいた人たち=貧困層は、高くなった家賃や物価を払う余裕がなくなり、遂にはそこを離れざるを得なくなるという現象のことだ。ここ数年よく耳にするのは、カリフォルニアのベイエリア周辺の「テック・ブーム」により起きているもので、GoogleやFacebookなどのテック系企業がベイエリア近郊にオフィスを構え、若い金を持ったそれらの企業のエンジニアなどがサンフランシスコやその近郊に移り住んで(彼らは会社が用意するバスで、街から会社へ通勤することもあるとか)家賃が高騰、元々住んでた貧困層は家賃が払えず住めなくなり、他の都市に移るか、最悪ホームレスにならざるをえない、という末路が待っている。要は、金がなければ出て行け、というあからさまな排除が行われる、とても資本主義然とした現象だ。
ちなみに「高級化」をする側、つまりお金を持ってて移り住む側の視点で考えてみると、「中間層~富裕層の人々が、貧困で治安の悪い地域を再開発し、『高級化』させる」とネットに書いてあったのを見たことがある。「街をポジティブにアップデートする」なんていう、吐き気のするような言い回しも見た。

ジェントリフィケーションのひとつのプロセスとして、以下のようなものがある。
芸術家、つまりパンクバンドをやっていたり、絵を描いたり、何かアートをやっているような人たちというのは、お金がない。だから必然的に家賃の安い地域へ住むことになる。しかし、そんな人たちがかろうじてやっていける地域に、例えばアート・ギャラリーが出来る。それがちょっとした流行になると、ヒップスター(流行に敏感な(ウザい)人たち)が、「クール!」とか言って目をつけて移り住む。そしてそれを見た開発業者が、お、その土地いいじゃん、みたいな感じで、投資の対象地域に選ぶ。その土地に投資が起こることで、高級店やレストランなどが増え、家賃が上がり、元々住んでいた芸術家やパンクスのような貧乏人は、上がった家賃が払えなくなり、その土地を出ていかざるをえない、というサイクルなわけだ(この「芸術」によってジェントリフィケーションが起こることを、「アートウォッシング」とも言うらしい。芸術家も元々安いからとやってきたのに、その結果自分で自分のクビを絞めることになるから、辛い部分もあるだろう)。ちなみに2016年12月2日に、カリフォルニア州オークランドの芸術家のコレクティブ、「Ghost Ship」が火事になり、36人が亡くなった事故があったが、これもある種のジェントリフィケーションの被害によるものだという意見もあった。法律的に「住んではいけない」場所に多数のアーティストが住んで、イベントを行っていたらしいが、そうでもしないと住めない状況に、そのアーティストたちは追いやられていたわけだ。それは別にギャラリーだけに限った話でもなく、たとえば日本のケースに置きかえると、「アメリカ西海岸からやってきたオシャレなカフェ」とか、「オーガニック料理を出すエコロジーなレストラン」といった、ゼイリブ的世界をにおわせる美辞麗句をまとったお店が、東京であれば、いわゆる下町なんかにできた時は要注意だ。そのお店に善意があろうがなかろうが、それが結果として「流行」を起こせば、その土地がジェントリファイされるきっかけにもなる。まあ今の所日本のジェントリフィケーションは、行政が主体となった「再開発」が主流で、現在なら前編にも書いたように、2020年のクソ忌々しいオリンピックのために、明治公園や渋谷の宮下公園(こちらは三井不動産と渋谷区の結託事業らしい)を再開発するために、野宿者の排除が平気で行われているありさまだ。え? きれいになっていいじゃない? 野宿者とパンクは関係ない? 再開発賛成? そんなあなたはもしかしたら、「高級化」をする側の人間かもしれない。Nadaたちがかけてたあのサングラスをかけて、鏡の前で己を見てみるといい。

ニューヨークのジェントリフィケーション

さて、この紀行文はあくまでニューヨークについてのものだった。ジェントリフィケーションの説明に始終して誌面を減らす前に、ニューヨークのそれについて感じたことも書いとかないと。タイトルに偽りあり、になってはいけない。
前編の最後に引用した、「世界で一番長い旅路は、ブルックリンからマンハッタンへの旅路である」という意味深長な言葉は、アメリカのネオコンの始祖とされるユダヤ系アメリカ人学者、ノーマン・ポドレッツが1967年の自伝、『文学対アメリカ――ユダヤ人作家の記録』(原題:“Making It”)の冒頭に書いた言葉だそうだ。ポドレッツは移民の町ブルックリンに住む貧民ユダヤ少年、まわりはイタリア系移民や黒人に囲まれた状況。そんな少年が、イースト川で隔てられた、たった数百メートル先にあるマンハッタンという島に憧れる――貧しい人たちが住んだ当時のブルックリン側からの、中産階級への憧憬がこの言葉や、貧しいユダヤ人から中産階級、はては保守論壇のスターとなったポドレッツの人生からは読み取れるわけだが、心理的にはそれくらい長い距離が、当時のマンハッタンとブルックリンの間にはあったのだ(念のため断っておくが、私はポドレッツの思想を支持するものではない)。

今となっては、ブルックリンのあらゆる方面とマンハッタンは、数本の橋だけではなく、血管のようにはりめぐらされた地下鉄でつながっている(もっともユニオンスクエアからウィリアムズバーグ方面へと向かうLトレインは、2012年のハリケーン「サンディ」の影響で、来年から修復のために一時閉鎖となるらしいが)。前編で書いたように、マンハッタンの南東地域、イースト・ヴィレッジやロウアー・イースト・サイドはとっくにジェントリフィケーションが済み、それが川向こうのブルックリンにもだんだんと侵食し始めた。奇妙なデザインのハイライズがイースト川沿いに立ち並び、リノベーションされた倉庫にオシャレなお店が入るウィリアムズバーグがまずその筆頭だ。もともとはユダヤ人やプエルトリコからの移民が住んでいた地域だが、そこにマンハッタンから溢れた中産階級の白人が住み始め、家賃は高騰。今「ウィリアムズバーグ」と日本語でググると、「NYで一番オシャレでアツい!」とか出てきて、そのサイトを開けば、「ウィリアムズバーグで流行の最先端をいくヒップスター気分を味わってきてくださいね」とご丁寧に安い推薦文まで出てくる。ヒップスターってやっぱり「ポジティブ」な言葉として理解されてるのか? うんざりだな。
ちなみにウィリアムズバーグのイースト川沿いには、かつて”Death By Audio”という、インディー・バンド向けのライブができる倉庫があったが、2014年にVice Mediaがその建物を借り上げ、退去を求めたため立ち退かざるをえなかったという。他にも285 KentというDIYなハコもあったが、(お金がなくて)違法営業だったことも手伝い、こちらも2014年に建物が買われ閉店。DIY文化も金でぶっ潰す。これもジェントリフィケーションのひとつの側面だろう。

ネットから拾ってきた「計画図」だが、こんなデザインの高層マンションを建てるとかいう情報が、そこらじゅうで見つかる。

ネットから拾ってきた「計画図」だが、こんなデザインの高層マンションを建てるとかいう情報が、そこらじゅうで見つかる。

さて、もちろんジェントリフィケーションの「侵撃」はウィリアムズバーグにとどまることなく、南のベッドスタイ(黒人が居住するエリアにあるイタリア系のピザ屋を中心に、人種差別を扱ったスパイク・リーの1989年の映画、『ドゥ・ザ・ライト・シング』の舞台)や、その東のブッシュウィックなど、ブルックリン各地でそれぞれ違った経緯をたどりながら広がっているらしい。ブッシュウィックは前編で触れたレコード屋、Material Worldや、古本屋以外閉まっていた“Punk Alley”があるエリアだ。ウィリアムズバーグとブッシュウィックを分けて東西に走るフラッシング・アベニューには、この写真ような建設中のマンションが多数あった。
bushwick
このあたりは道はまだガタガタ、道路はゴミだらけで、どこか安心するわけだが、こういったマンションに富裕層が住み始めれば、小綺麗で画一的な風景になってしまうんだろう。

ジェントリフィケーションがマズい点は色々あるが、コミュニティを破壊し排除する上に、差別を再生産する点が一番の問題だろう。元々住んでいた住人たちを経済的に追い出すわけだから、その人たちが長年にわたって培ってきた関係やコミュニティは、一気に破断されてしまう。そして入ってくる金持ちは、マンハッタンの企業に勤める資本主義、拝金主義の申し子みたいなのばかりだから、そんな横のつながりは気にも留めない。元から住んでいた「貧しい負け組」たちを軽蔑、排除し、差別するだけだろう。悔しかったら金を稼いでみろとでも言わんばかりに。

ジェントリフィケーションはそこらじゅうにある

日本でジェントリフィケーションを体感したければ、東京なら先述の東京オリンピックの名のもとにヤられている渋谷の宮下公園や、「出来上がったもの」であれば、「かつて」のドヤ街、山谷の北にある南千住を見たり調べたりするとわかりやすい。「ホームレス排除」も、もちろんジェントリフィケーションが取るひとつの手段だ。最近は「排除アート」と呼ばれる、その場所・空間を意図しない形で使わせないように、民間主導による「アート」を利用するといういまいましいものすらあるように、アートそのものがジェントリフィケーションの過程そのものに組み込まれ、まるでそれが「市民」の同意も得たものかのように振る舞う排除の方法もある。公園のベンチにアームレストを置いて寝転がれないようにしたり、椅子のようなオブジェクトに傾斜をかけて座れないようにしたり、高架下のスペースなどにホームレスが寝泊まりしないように、ゴツゴツした石を埋め込むとか、そういうやつのことだ。都市部であれば、ちょっとそこらを歩いてみるだけで、いたるところに存在するのが目につくはずだ。

もうどこで見られるようになってしまった、「寝転べない」ベンチ(写真は荒川区の公園)

もうどこでも見られるようになってしまった、「寝転べない」ベンチ(写真は荒川区の公園)


あとは「維新」の橋下が市長時代に打ち出した、大阪は釜ヶ崎の「西成特区構想」、あいりん労働福祉センターの建て替えも、ジェントリフィケーションの一形態だ。そこに住む「汚くて暗い」高齢者たちを追い出し、子育て世代を呼び込むとか何とか。山谷の場合もそうだが、「労働者の街」という「負」のイメージを払拭し、そういった汚く醜い分子を払拭した、「きれいな」街のイメージを作ろうというわけだ。この問題を考える時、日雇い労働者の生活を歌った、岡林信康の「流れ者」も忘れちゃいけない。

ほとんどニューヨークとは関係なくなってしまったが、ニューヨークはその都市の持つ「スピード」により、あらゆる物事の移り変わりが圧倒的に早い。だからそのジェントリフィケーションの歴史を見るにしても、ひとつのいい例なのだ。今やジェントリフィケーションはアメリカや世界の大都市に限った話でもない。果てしのない資本主義の欲望が変態し、見えないモンスターのように世界各地を襲っている。
「奴ら」が考える生活から逸脱するものを排除するジェントリフィケーション=高級化は、パンク的生活とは対極にある。それは多様性もクソも認めない。「豊かな」生活は楽しいぞ、黙って労働して税金を納めろ、という圧力を、町ぐるみで行うのがジェントリフィケーションなのだ。知らぬ間にそちらがわに参加させられている可能性すらある。つまりジェントリフィケーションが進むということは、その排除のターゲットである「下層」のパンクスが、いつの日か駆逐されることすら意味することを覚えておいたほうがいい。町も人も、一緒に「きれい」に一掃される。そんなのはゴメンだろう。

参考文献、サイト:
『ジェントリフィケーションと報復都市 新たなる年のフロンティア』ニール・スミス(原口剛訳)、ミネルヴァ書房(2014年)
『増補改訂版 – 追跡・アメリカの思想家たち』会田弘継、中公文庫(2016年)
『寄せ場 No.28 特集:ジェントリフィケーションへの抵抗』日本寄せ場学会、れんが書房新社(2016年)
「釜ヶ崎路上会議」ツイッター @kamagasakirojyo

20. August 2018 by sats
Categories: el zine, US | Tags: , , , , | Leave a comment

EL ZINE vol.31 -FATUM インタビュー/ ニューヨーク2018〈後編〉

EL ZINE vol.31は6月28日発売です。
今号では、ロシアのメタリック・クラストバンド、FATUMのインタビューを載せてもらっています。発音に悩む単語ですが、カタカナだと「ファータム」という表記が一番近い、「運命」なんかを意味するラテン語らしいです。

今回は、ZAYの招聘によるツアーもあり、ZAYからの依頼でインタビューすることになったんですが、バンドのことはもちろんですが(あの超クラスティーなアートワークのこととかも)、ロシアの現行バンドのことや、あとちょうどインタビューをする直前に偶然図書館で読んだ、「ゲンロン」という雑誌のロシア現代思想特集や、映画『霊的ボリシェヴィキ』なんかにも関連したりと、最近よく目にするので気になっていた、ロシアの極右思想家・アレクサンドル・ドゥーギンのことを何気なく聞いてみました。するとものすごくちゃんとした回答が返ってきて、このバンドは完全に信頼できる!と確信しました(笑)。それ以外にも、ロシアとウクライナの関係(ウクライナの「革命」について、現地の複雑な状況(ウクライナ政府に後押しされたウクライナのネオナチ武装隊に、ロシア人が加入して、東部独立派地域のロシア系ウクライナ市民を殺す、とか)や、プーチンに対するデモの真相など、手前味噌ですが、(そういうのに興味があれば)お世辞抜きに非常に興味深い内容となってますので、ぜひ買って読んで下さい。
もっと言うと、「アナキスト・ハードコア・パンク的なラディカルな思想を持ってて、かつ音もかっこいい」ことを両立できているバンドはなかなかいない、という私の勝手な持論を覆してくれるバンドでもあります。彼らも「今まで受けた中で一番おもしろいインタビューだった」と言ってくれたし、何より日本に来ることをとても楽しみにしてるので、そんな彼らが何を考えながらあんなバンドをやってるかを知るきっかけにはなるかと思います。

あと今号では、前号の続き、「ニューヨーク2018」の後編も載せてもらっています。前編(さきほどここにも載せました)はアメリカ滞在中に書いていたので勢いでなんとかしてましたが、後編はその勢いももうないので、前編でよく登場した「ジェントリフィケーション」を一から説明しながら、ニューヨークで起きた/起こっているジェントリフィケーションから、東京の山谷~南千住から、現在の渋谷、釜ヶ崎で起こっていることまでを横断して書きました。パンクス=お金がないがコミュニティはある、にとっても無視できない問題だと思うので、こちらも合わせてご一読いただければ。



31
EL ZINE vol.31
6月28日発売予定

●NO FUN AT ALL
(10年ぶりとなるニュー・アルバム『Grit』を4月にリリースしたスウェーデンのキング・オブ・メロディック・パンク・バンド、NO FUN AT ALLのヴォーカルであるIngemarへのインタヴュー)

●NO FUN AT ALLアルバム紹介
(NO FUN AT ALLがこれまでにリリースしたアルバム6枚のディスク・レヴュー)

●RIXE
(フランス/パリのオールドスクールなOi!パンク・バンド、RIXEへのインタヴュー)

●FATUM
(ZAYの招聘により8月に来日を予定しているロシア/モスクワのメタリック・クラスト・バンド、FATUMへのインタヴューby 鈴木智士氏)

●HANK WOOD AND THE HAMMERHEADS
(7月に来日を予定しているニューヨークのガレージ・ハードコア・パンク・バンド、HANK WOOD AND THE HAMMERHEADSへのインタヴューby Shogo氏/GREAT DANCE & Jin Windam氏/LOVE OVER VOLTAGE)

●Umea Punk City
(ex.AC4~現ACID BLOODのKarlによる、スウェーデンUmeaの現地情報コラム)

●END OF POLLUTION
(福岡市博多区のクラスト・パンク・バンド、END OF POLLUTIONのギター・ヴォーカルであるJet氏へのインタヴューby ツトム氏/悲観レーベル)

●SLANT
(SCUMRAIDやAGARI、BLOODKROW BUTCHERなどのメンバーらによる韓国の新バンド、SLANTへのインタヴューby
Shogo氏/GREAT DANCE)

●Dra at helvete!
(正体不明の覆面バンド、SKITKLASSのヴォーカルであるSkitkatt氏によるコラム)

●CHAIN CULT
(DIRTY WOMBSやCONSPIRACY OF DENIALなどのメンバーらによるギリシャ/アテネのポスト・パンク・バンド、CHAIN CULTへのインタヴュー)

●RATOS DE PORAO
(7月に来日を予定しているブラジルのベテラン・ハードコア・バンド、RATOS DE PORAOのヴォーカルであるJ.Gordoへのインタヴューby Rafael Yaekashi)

●高松ハードコア特集 発売記念トーク・ライヴ・レポート
(前号vol.30で掲載させて頂いた「高松ハードコア特集」をキッカケに開催されたトーク・ライヴのレポート記事by 井川氏/IMPULSE
RECORDS~TOONICE etc)

●羅生門
(ワシントンのハードコア・バンド、羅生門でヴォーカルとして活動している浦上皓平氏へのインタヴューby Shogo氏/GREAT DANCE)

●ニューヨーク2018 後編
(2018年3月にニューヨークを旅してきた鈴木智士氏による紀行文、及び「ジェントリフィケーション」についての解説)

●DOWNHATTA
(ブラジルのハードコア・バンド、DOWNHATTAへのインタヴューby Rafael Yaekashi)

●LASHING SPEED DEMONS:MOTORHEAD/Robbo & Wurzel Era
(前号vol.30の続きとなる、”黄金トリオ”期以降の、1982~95年のMOTORHEADについてby 大越よしはる氏)

●チャレンジ・インタヴュー
(クボラ氏[Slight & Slappers])

●ES GIBT KEIN WERT
(発行人によるディスク紹介)

13. June 2018 by sats
Categories: el zine, US | Tags: , , , , | Leave a comment

ニューヨーク2018〈前編〉

4月末に出たEL ZINE vol.30に掲載してもらった、ニューヨーク紀行文の前編をこちらにも載せておきます(少しだけ加筆修正済み)。
文中に登場するバンドや施設などの音源、ウェブサイトはこちらをどうぞ。
後編は、ほぼジェントリフィケーションのことしか書いてませんが、今月末発売のEL ZINE vol.31に掲載されるので、合わせてどうぞ。


ニューヨーク2018 〈前編〉

去る3月にアメリカに行き、5日間ほどだがニューヨークを見て回ってきた。今回はその紀行文の前編です。

——————————
予定されていた仕事が延期になって、ぽっかりと時間が空いてしまった。私の相方・通称ak(米国籍)は、所用で現在ニューヨークに滞在中。なので今行けば宿代はかからない。ニューヨークにはしばらく行っていない。はるか昔のことに感じるが、2004年のブッシュJr.共和党大会に反対する大規模デモに、当時滞在していたフィラデルフィアのパンクス、NEMAやJIHADの元メンバーなんかと一緒に3日間だけ行ったのが最初で最後だ。マンハッタン中がデモ隊とそれに対する警備で覆われ、「通常」のニューヨークを楽しむ暇なんかなかった。つまり私は、ニューヨーク経験がほぼゼロだ。
航空券はそこまで高くなかった(北京乗り換えのAir China便で、帰りは北京で14時間待ちの、暇人向けで過酷なヤツだが)ので、とりあえず行くことにした。

旅は事前の情報収集があった方が充実するが、今回はそんな時間もない。以前NYCパンク特集もやっていた本誌編集の山路氏と、去年ブルックリンでライブをやったG.A.T.E.S二ツ木氏にレコード屋やライブ関係の情報だけ聞きながら、14年振りにマンハッタンへ。JFK空港から当座の滞在先のグリニッチヴィレッジまで私を運んだAトレインは、何か拍子抜けするほどクリーンだ。ニューヨークの地下鉄はもっと汚くて暗然としていた印象があったが(前回訪れた2004年は、既にルドルフ・ジュリアーニによるニューヨーク市「浄化」後なので、地下鉄はその昔みたいな「危険」な乗り物ではなかったが、それでもそこら中の車両にグラフィティはあった気がする)、東京やロンドン、ベルリンなんかの大都市の地下鉄と何ら変わりがない。パリの小便臭い地下鉄の方が暗く、雰囲気が悪いくらいだ。

さて、勢いで来たニューヨーク。第一の目的は古本屋巡りで、今ニューヨークにはいい古本屋がたくさんあり、そちらは目的をほぼ達成(ニューヨークの古本屋についてはこちらをどうぞ)。あと見たい絵が1つだけあったメトロポリタン美術館にも行った(しっかり25ドル取られたが)。が、あまりこの記事には関係ないのでここでは省略。まずはパンクのレコード屋についてだ。
マンハッタンでの滞在先だったグリニッチヴィレッジに、Generation Recordsという店がある。ここはいわゆるNYHCやメタルが割と多めで、地下にはアメリカのそこらの郊外にあるスリフトストアに置いてそうな、ジャケットが擦れきった古いレコードも大量に置いてあった。が、高い。レコード価格沸騰はここ数年で最早当たり前の事実になったようだが、それでもたとえばリイシュー盤の新品に30ドル出せるほど私の懐事情は芳しくないし、当然のことかもしれないが、価格高騰とレコード欲は見事に反比例した。地下のレコードはサントラやパンクの7インチだけ見たが、興味をそそる物なし。AGNOSTIC FRONTの新しい7インチが19ドルで売っていたのにはぶったまげた。冗談かよ。一体どんな金持ちがこんなレコードを買うんだ。あと昔ベルリンのレコード屋で見かけた日本のバンドのブートや、新発売っぽいブートが売っていたことも記しておこう。ネットがどれだけ普及しようが、ブートの歴史に終わりはなさそうだ。
この店にも、最近のレコードブームの一翼であるらしい昔のB級(だけじゃないが)映画のサントラLPのリイシューが新品で売られていた。たとえばPORTISHEADのジェフ・バーロウなんかは、自身のレーベルInvada Recordsがもはやサントラ・レーベルと化している気もするが(『フリー・ファイア』や『エクス・マキナ』のような、コンポーザーのベン・ソールズベリーと一緒に手がけたトラックはかっこいいけど)、そういったサントラLPもどれも30ドル越えだ。
generation records
18th通り沿いにあるAcademy Recordsというお店は、オールジャンルのレコード+結構な数のDVDやブルーレイがあったが、目ぼしいものはなし。別の日にマンハッタンのBook Off(45th通り沿い) にも行ったが、こちらも大量の薄汚れたDVDや、あとは日本のアニメ関連のものやら、ギターやパソコン関連機器などHard Offで売ってそうなものが置いてあったが、「一体誰がこんなものを持ち込んだんだ」というような和書が結構あったパリのBook Offと比べるとつまらない。もっともどちらも店員に日本語を話す日本人らしい人がいたが、あの人達はいくらもらって働いているのだろうかと疑問は残る。

さて、Lトレインに乗ってマンハッタンを離れ、ブルックリンへ向かおう。Morgan Ave.駅で降りると、そこはまるでカリフォルニアのオークランドのようなだだっ広い倉庫地帯だ。ただここもジェントリフィケーションが進むブッシュウィックという地域。そこらじゅうで工事は進み、妙なデザインのマンションがいくつも建設中。でもここはまだ腐ってもブルックリン、マンハッタンみたいな見せかけの清潔さはなく、道はガタガタで土埃やビニール袋が宙空を舞う。そんな中Flushing Ave.を東へ歩くと、Material Worldというレコード屋が見つかる。ここはHeaven Streetという名前で、EL ZINE vol.17のNYC RAW PUNK特集に載っていたレコード屋だ。この店にKatorga Worksというレーベルをやってて、去年G.A.T.E.Sをニューヨークへ呼んだアダムという人がいる、というのを先の両氏から聞いていたので行ってみたのだ。が、彼はLAにいるらしく会えなかった。残念。お店はハードコア・パンクやアンダーグラウンドメタルを基調にしつつ、ニューウェーブ/デスロック、普通のロックやヒップホップ、テクノなんかも置いてあるあたり、昨今のレコード屋事情を反映しているんだろう。こっちの人はいろんなジャンルを横断して聞く人が多いし、かつヒップなエリアだから客はパンクスだけじゃないわけだ。その珍妙さは、DISCHAGEのでかいフラッグが奥に貼ってある店内には(おそらく検盤中なのだろうが)ニック・ドレイクの”Time of No Reply”がかかり、旅先でのニックの柔らかい歌声に癒やされながら私が購ったのは、イザベル・アジャーニ主演、ジェームズ・アイヴォリー監督の1981年の英仏映画『カルテット』のサントラLPと、APOCALYPSE/MINDROTのSplit7インチ(どちらも5ドル)という事実が示していよう。こんな無秩序なレコード屋だが、もっと買いたいものがあったのに、店員からは「ネットの調子が悪くてカード決済できないから、支払いは現金でヨロシク」と言われ、現金の手持ちがない私は困り、それ以上の買い物を中止。まあトイレ貸してくれたからいいか(ニューヨークは公衆トイレやコンビニのトイレがないので、用を足すのも一苦労。どうしても困ったらスタバへGo!だ)。
Material World
あとブッシュウィックの、パンクスが運営する小さなお店が並ぶという”Punk Alley”にも寄ってみたが、”Better Read Than Dead”という素敵な名前の古本屋しかやっていなかった。他の小さなお店はたたんでしまったのか、週末しかやっていないのか。ちなみにこの古本屋はジンやMaximum Rocknrollも置いていたので、パンク人脈の古本屋なのだろう。細長い建物のいいお店。

ブッシュウィックのPunk Alleyはシャッター街に…

ブッシュウィックのPunk Alleyはシャッター街に…


ブルックリンのジェントリフィケーション進行中地域ウィリアムズバーグには、他にもRough Tradeや、老舗のEarwax Recordなんかもあるが、今回はパス。

さて、せっかく旅に出たんだから、ライブのひとつでも見てみたい。その「土地」を知るにはライブを見るのが手っ取り早い。正直言うと最近のニューヨークのバンドは個人的にまったく興味がわかないが、それでもまあライブは見ておきたい。というわけでネットで検索したりレコード屋のフライヤーを見たりしたが、何が起きてるのかいまいちよくわからない。そうこうしてると、Facebookのフィードにこんな(ひどい)フライヤーが出てきた。
Youth Crusher
会場のホームページを見てみると、同日同時刻開始で、こんなライブも載っている。
Sex Prisoner
2つのライブを同時開催? そのFacebookのフライヤーを上げていた友人、コロンビア出身のパンクスで、2012年に韓国で知り合って以来、たまに連絡を取っていたディエゴという奴だが(一時期日本も長く旅行していたので、遊んだことがある人もいるかもしれない)、彼に連絡してみたところ、SPIC(Salir De La Pobreza Induce al Caos)というのが彼が今ニューヨークでやっているバンドらしい。これはちょうどいい。滞在していたブルックリンのとても住みやすそうなエリア、プロスペクトハイツ(ラッキーなことに、滞在の途中でマンハッタンからブルックリンへ滞在先が変わったのだ)から、もうあまりパンクのライブに興味がないakと一緒に少し歩いてGトレインに乗り、Greenpoint Ave.駅まで行く。駅出口からすぐのところにあるBrooklyn Bazaarという会場は、ファンシーなレストラン&バーで、そこにライブができるスペースが3つくらいあるらしい。先のSEX PRISONERのような流行パワーバイオレンス系は、今夜は2階のライブスペースでやり(3月のスケジュールを見たら、DAG NASTY、MORTUARY DRAPEなんかもやるらしい)、聞いたこともないようなDIYパンクバンドは、暗く湿った掃き溜めのような地下でやるわけだ。
ディエゴの「俺たち1番目で20:30からスタートだから」という言に従い、20時過ぎに到着。フライヤーには”All Ages”と書いてあったが、建物に入ると屈強そうなセキュリティがもれなくIDチェック。地下のスペースに行くと、まだほとんど人がいない。このライブの企画者らしいダンというナイスガイがakの友人らしく、しばし話したり、彼がドリンクチケットをくれたのでビールを飲んだりして時間を潰す。ディエゴがようやく現れ、久々に色々と身の上話だが、こいつの英語はすげー速くて聞き取りにくいんだった…。国に帰ったりアメリカに戻って職を得たりと、その後の人生は色々あったらしいが、元気そうで何より。SPICのドラムが来ないのでライブはなかなか始まらず、ようやくスタートしたのが22時半。2時間押しだ。昔アメリカでライブしたときも、時間にルーズなショーはあったが、アメリカで2時間押しは初めてだな。メキシコのティファナでライブしたときに4時間押しというのがあったり、ギリシャではライブが深夜0時に始まったりしたが、まあその土地それぞれの時間感覚というものがあるのでしょう。

SPIC

SPIC


SPICはメンバー全員中南米系の、ちょっとフリーキーなラティーノパンク。ドラムがパワフルでかっこいい。次は地元のRUBBERというバンド。ギターとボーカルが女性で、EL ZINE vol.29に興味深いインタビューが載っていたHARAMのボーカルがベースを弾いていた。ボーカルはグラム/ゴスがかったようなファッションにリバーブ全開の、いかにも今のニューヨーク風なロウパンク。このバンドは人気らしく、今晩一番の人だかり。
RUBBER

RUBBER


次のバンドが、ギリシャはアテネからのツアーバンドのYOUTH CRUSHERで、その名の通りスポーティーなオールドスクール・ハードコア。「俺たちのことなんて誰も知らないけど、こういうバンドもいるんだよ」と、RUBBERが終わって一気に少なくなった客に対して寂しげに語り悲哀を誘う。ラストはΜάτιというギリシャ語のバンド名だが、どうやら在米のグリーク・アメリカンによるバンドらしい。THE ACCUSEDみたいなギターが刻みまくってるスラッシュバンド。
各バンドの音楽より気になったのは、バンド、客を含めたそこにいた人たちの「見た目」だ。RUBBERやその周りは個性的な、いわゆるパンク・アウトしたようなファッションだが、最近のベイエリアのような真っ黒鋲ジャン一辺倒ではなくて、カラフルでもっと各人自由な感じ。小金持ちの親の援助を受け(要は仕送りもらって)ニューヨークやサンフランシスコで活動する若いパンクスもいると聞くし、そういった服もそれなりに金もかかってるのかもしれない。そのまま『マッド・マックス』に出てきそうなプロテクターを装着してたかっこいいバイカー・パンクスもいたな。SPICのメンバーはボロボロな服着てたし、ギリシャのバンドはジーンズに土色ジャケットの労働者的風貌。お客も上記RUBBER系からDC真面目ハードコア系(つまり普通の格好)、カレッジロック風、おしゃれな女性たち(そういえばお客の3割くらいは女性だった)と、それぞれの生活が透けて見えるようなファッションがその地下室に同居していた。そんなところからもニューヨーク・パンク内の階級性が見えるのかもしれない。
ライブが終わったのが0時半。外に出るとあまりに寒い。強い風が顔を切るような冷たさで、駅から歩いて帰れる気温じゃない。一応24時間走っている地下鉄は諦め、タクシーで帰る。労組もなく、ドライバーの実質的最賃も下手すりゃ時給3ドルというUberはやめておこう。

「ニューヨークのハードコア・パンク」と言えば、「名所」が色々あるが、マンハッタン滞在中のある晴れた日に、散歩がてらイースト・ビレッジに向かった。1988年の8月6日~7日に暴動があったトンプキンス・スクエア・パークを見ておくためだ。この暴動は、その公園に住んでいたホームレスやスクワッターたちが、地域の治安悪化やジェントリフィケーションを理由に警察に排除され起きた暴動で、Youtubeには、その暴動の1週間後にNAUSEAやBREAKDOWNなど、当時のニューヨークのバンドが同公園でライブを行った動画が上がっている。その後も毎年のように、この暴動を忘れないようにと、ライブが行われているみたいだ。暴動記念で毎年ライブなんて素敵じゃないか。
当時の公園の様子は文献でも当たらない限り、ネット上の情報以外に知る由もないが、今の公園はきれいなもので、北の一角にはドッグランのようなものすらあって地元民の憩いの場のようだった。ホームレスの人なんかひとりもいない。まあ似たようなことは日本でも起きていて、たとえば愛知万博開催のために、2005年の1月24日に、名古屋の白川公園の野宿者が行政代執行で排除された現場や、最近だと2020年のオリンピックのために行政が野宿者を明治公園などから追い出す光景と地続きなわけだ。

トンプキンス・スクエア・パーク

トンプキンス・スクエア・パーク


トンプキンス・スクエア・パークから東へ1ブロック行くと、元C-Squatの建物がある。現在は”Museum of Reclaimed Urban Space(MoRUS)”という、上記暴動やニューヨークのスクワット文化の資料館みたいな施設になっているらしい。せっかくなのでお金を払ってでも入ってみようと思い、11時オープンということで11時半くらいに行ったんだが、開いておらず。
そこから南へ歩くとロウアーイーストサイドに入り、ジン図書館やギャラリー、Food not Bombsなどのコレクティブの中心地で、ハードコア・パンクや地下メタルのライブが数多く行われてきた著名な施設・ABC No Rioがあるのだが、行ってみたら、何と建物がない! ホームページを見ると、老朽化によりビルを建て替え中、再びソーシャルセンターのような機能を持たせる施設にするということで、カンパも受け付けているみたい。しかし相当金がかかりそう。
あと最後にこれを載せておこう。現在のCBGB跡だ。
CBGB
2008年より、ジョン・ヴァルヴェイトスというデザイナーのファンシーな服を売るブティックがテナントとして入っている。壁には当時のフライヤーやレコードなどが申し訳程度に残されているらしいが、店に入る気も起こらない。
このように、ニューヨーク・ハードコア・パンクの「過去」は表面的には消えつつあるのかもしれないが、その街のごとく入れ替わり激しくパンクスがうごめき、様々な活動が行われる中で、バンドや人、組織のあり方も変わっていくのだろう。その変化のスピードがおそらくニューヨークはとても早い。

超駆け足で書いた今回の雑文だが、次号後編では、今回何度も出てきた「ジェントリフィケーション」という言葉を噛み砕きながら、1967年にある米保守学者が言った、「世界で一番長い旅路は、ブルックリンからマンハッタンへの旅路である」という言葉の現在を考えたい。(つづく)

13. June 2018 by sats
Categories: el zine, music, US | Tags: , , , , | Leave a comment

ニューヨークの古本屋 〈2018年3月編〉

もう1ヶ月以上経ってしまって、記憶も曖昧になりつつあるが、3月にニューヨークに行った際に訪れた古書店をまとめておく。
このブログ、一応パンクス向けの記事が多いし、もちろんパンクスが読むであろうと想定して書いてるつもりなんだが、前にも書いたように、検索でここにやってくる人には、イスラエルの入出国の記事。あとはエルサレムの古書店とか、那覇の古書店など、ある種実用的な記事しか読まれてない(最近google analyticsがちゃんと動いていないので、検索の内訳がわかんなくて困ってるんだけど。T君(このブログのサーバの持ち主)、何とかして!)っぽいので、まあニューヨークのについても書いておこうと。

ただニューヨークは、ジェントリフィケーションなどもあって家賃は高騰、ヒップな地域がどんどん移り変わったりするせいで、店の移り変わりも早そうなので、以下の店がいつまであるかは知らないし、同じ場所でも経営者が変わって名前を変えるとか、いろんなことは想定されるので、ググってここにたどり着いたひとは最新の情報をチェックしてください。

傾向としては、やはりブロードウェイや映画・テレビ産業などの中心地でもあるからなのか、どの店もフィクションや演劇、詩の本の取り扱いが多いのと、店内で朗読会などのイベントをやってるところも多そうだった。

〈マンハッタン〉

Strand Bookstore
Strand bookstore
ニューヨークの老舗大型古書店。新本も売ってる。店の外の「エサ箱」的1ドル本がかなり充実してるとakが言ってたので行ってみたが、エサ箱にはえらい人だかりで、おまけにメチャクチャ寒いのでササっと見て店内へ。4フロアあるのか、とにかく在庫は多い。新本の面陳のように、同じ古書を10冊も積んで売ってるって、商品の回転が早くないとなかなかできないよな。こっちの人は新刊本は読んだら値が高いうちに古書店に売っ払うんだろうか。
地下には最近猛烈に流行ってるらしいタロットやオカルトのコーナーがあって、そこにお香の一つとして毎日香が売ってたが、向こうの毎日香には何かウーウー的意味があるんだろうか。
ここでは文庫版みたいな扱いの、Bantam Classics版のシャーロット・ブロンテの“Villette”を新本で購入。5.35ドル。新本でも10%オフ。でもニューヨークはSales Tax(消費税みたいなの)が8.875%と高いのであった。
住所:828 Broadway, New York
https://www.strandbooks.com/

Mercer Books & Records
Mercer st. bookstore
グリニッチヴィレッジのニューヨーク大学一帯の南側ら辺にある、オールドスクールな古本屋。後からブルックリンのきれい目な古本屋にいくつか行って思ったが、こういった古くて雑然として、カテゴリも適当に分けてある古本屋の方が、古本屋然としていて、何かと出会える感が高いし、値段も安いし、お店は爺さんひとりでやってるぽくて好感が持てる。こっちは古本屋に限らず、どこでも何でも大体カード決済が可能で楽だが、そのカード読み取りも、最近多くのお店が使ってるらしい「Square」というカード決済アプリ(iPadなんかにリーダー(端末)をつけて、それでカードを読み取って、レシートはメールで受け取る。便利は便利なんだけど)だとあまりにモダンすぎて味気ないので、やっぱり調子の悪いカードマシーンがあって、カードを何回もスライドさせて、汚いボタンで暗証番号打つ方がいいよね。まあ単にそういったヒップな決済システムがちょっと嫌なだけなんだけど。
さて、この店はレコードもちょっと売ってて、リチャード・プライヤーが自分で撮った自伝映画『ジョ・ジョ・ダンサー』のサントラが売ってたので購入。6ドルだったか。
ホームページを見ると、もう25年もやってるのね。この25年でこの地域の家賃はどれくらい上がったんだろう。
住所:206 Mercer St, New York
http://www.mercerstreetbooks.com/

Codex
Codex
ここは下記ブルックリンのBook Thug Nationの関連店なのか、そのSquare経由で受け取ったレシートの差出人がBTNだった。
いかにも最近風な、オシャレでスッキリした店内に、フィクションやアート系の本がたくさん陳列してある。地面に本を置く、なんていう、日本の古本屋じゃ当たり前過ぎて何も思わないようなことは行われておらず(笑)、きれいすぎてこちらが恐縮するくらいだ。隣のカフェとは店内で繋がってるのもオシャレポイントが高い(私的にはマイナスポイントだが)。
シャーリイ・ジャクスンの“Raising Demons”(『野蛮人との生活』(ハヤカワ文庫)は冷徹な観察眼で家族を見るノンフィクションで、小説以上にすげー面白いから、これも邦訳出たらいいのに)と、チャールズ・ウィリアムズの“War in Heaven”を購入。さて、ちゃんと読めるだろうか…。そういやどっちも国書刊行会の「ドーキーアーカイヴ」に入ってる作家だな。『ライオンの場所』早く読みたいよ。
住所:1 Bleecker St, New York
http://codexbooks.info/

BOOKOFF 49 W 45th NY
昔パリのブックオフに行ったら、結構いろんな物があって(以前書いたが、早逝した詩人の安川奈緒氏に宛てた雑誌の献本なんかも売っていた)、ちょっと期待して行ったんだが、汚いDVDがたくさんと、楽器やPC機器のようなハードオフ扱いの製品、あとアメリカのアニメオタク向けなのか、そういった関係のものが多くて、特に目ぼしいものもなし。がっかりしたから写真撮るのも忘れちゃったよ。
住所:49 West 45th Street New York

〈ブルックリン〉

Book Thug Nation
bookthugnation
ここはブルックリンのジェントリフィケーション中心エリア、ウィリアムズバーグにある。メトロだとLトレインのBedford Ave駅が最寄り。
ここも綺麗な古書店で、いかにもと言ったら失礼だが、ジェントリファイドされた後にできました、という感じはする。地面に本を置かないのは、先述のCodexと同じ系列だから、きっとここのポリシーなんだろう。地面を這うようにして、何かよくわからないけどひたすら本を探す行為というのも好きなんだが、それはおあずけというか、そういうことをさせない雰囲気のお店。
コミュニティ・スペースとも書いてあったので、集会やイベントも行われているようだ。今回ウィリアムズバーグにはここ以外行かなかったので、何がどれくらい「高級化」してるかはよくわからないのだが、ブルックリンの中でも何か「きれい」だな、というのは少し道を歩けばわかる。イーストリバー沿いには変なデザインのハイライズが立ち並び、もう南千住駅の東側みたいになっている(地価はまったく比較できないだろうが)。そういえば駅からここまでの間に、きれいな店構えのアート専門の書店があった。そっちにはお客さんもたくさんいた。
さて、このサグな店では、ジョン・ウォーターズの自伝“Role Models”を安く購入。あとDaniel Makagonという人の、アメリカのアンダーグラウンド・パンクの本も買った。90年代の話かと思ってよく見ずに買ったんだが、2015年出版でわりと新し目のバンドのことも載っている。
住所:100 N 3rd St, Brooklyn, NY
http://www.bookthugnation.com/

Better Read Than Dead
better read than dead bushwick
ここは、EL ZINE編集Y氏に教えてもらった、ブッシュウィックの「パンク小道」を目当てに行ったんだが、平日の昼間に行ったからなのか、もう今はそこは何もないのか知らないが、このお店しかやっていなかった。細長い形の店舗で、外のエサ箱にはSFのペーパーバック(ひたすらアシモフとか)と、文字通りの箱には色あせたMaximum Rocknrollの90年代のバックナンバーが1冊2ドルで売っている。ちょっと期待しながら中へ入ったら、今のMRRも売ってたので、パンク小道にあるパンク人脈の本屋なのだろう。店員のあんちゃんは真面目そうな人だ。狭い店内はほとんどフィクションと詩の本だけ。ここではトマス・ディッシュの未邦訳の長編のハードカバー1冊と、スターリンのインタビューが載ってるMRRの92年10月号を購入。ディッシュたくさんあったな。あとセリーヌもたくさんあった。ニューヨークの古本屋にはセリーヌが多い! というのは今回気付いたことのひとつ。アメリカではどこまで発禁になっているか知らないが、日本で文庫本で出てる代表作2作に加え、『北』、『城から城』、“London Bridge”は結構よく見かけた。
しかしこんな狭い店で、必然的に在庫もそんなに置く場所もなく、これでやっていけるのだろうかとちょっと心配にもなる。「どう? やっていけてるかい?」と聞くわけにもいかんしねぇ。もっと買えたらよかったんだが、本は重いからねぇ。

これがその「パンク小道」の現在。左手がその本屋。ね、何もやってないでしょ。

これがその「パンク小道」の現在。左手前がその本屋。ね、何もやってないでしょ。


住所:867 Broadway, Brooklyn

Human Relations
Human relations bushwick
上のBetter Read Than Deadのあんちゃんに、この辺に他に古本屋はある?と聞いたら教えてくれたのがこのお店。実はその前に行っていたレコード屋、Material Worldの対面にあるのだった。ブッシュウィックの建設中の大型マンションを見ながら、Flushing Aveを往復したことになる。ちょっと疲れたな。
ここはわりと大きめの店で、フィクション以外にもコミックやアートの本、ニューヨークではもう珍しくすら感じる、大きめのノンフィクションのコーナーもあった。Material Worldで買ったレコードが入った赤い袋を持ってると、素敵な笑顔の店員のおじさんが「何買ったの?見せてよ」と話しかけてきたので仕方なく見せたところ、「へー、知らないなあ」という不毛な会話をしたあと、あのレコード屋いいよね、俺も昨日行ったんだよ、これ買ったんだ、聞く? と会話が続く。やぱりMaterial Worldはメタル、パンク向けだけのレコード屋じゃないんだな(このあたりはEL ZINE vol.30の拙稿「ニューヨーク2018」を参照いただきたい)。
というわけで、気さくな店員のおじさんがいて、お客さんも結構たくさんいて繁盛してそうなこのお店では、オクタヴィア・バトラーの長編などを購入。ここもSquareで決済。
住所:1067 Flushing Ave, Brooklyn
http://www.humanrelationsbooks.com/

Unnameable Books
(写真撮るの忘れた)
ブルックリンで数日滞在させてもらった、akの友人の家からほど近いところにあったプロスペクトハイツのど真ん中のお店。このあたり、子供向けの本専門店、ってのがいくつかあるようで、このお店にも絵本がたくさん置いてあったので、子育てファミリーが多いエリアなのかな。
ここはフィクションは他のお店よりは少なめ、子供用の本の他にも、「LGBT」の棚、Black Studiesの棚などもあり、多分古くからやってるお店なんだろう。ここに来て、新しいお店=フィクションの割合が多い、ということが段々わかってきたぞ。現にここのカード決済は、Squareじゃなくてちゃんとしたカードリーダーでボタン押すタイプだった。私の好きな類の古本屋だ。
ここではBrian Evensonの長編1冊などを購入。Brian Evensonは結構な多作の作家だが、いつも洋書で買ったやつを読み切らないうちに、それの邦訳が出る。私の選択が悪いのだろうか、センスがいいのだろうか、短編集だからだろうか、それは知らない。で、邦訳が出ると洋書を読むのが億劫になり、でも邦訳を買うのも何だかもったいないので、結局読み進められない、というジレンマに陥るが、今回は邦訳出る前に読み終えられるのだろうか。
あとクラスナホルカイ・ラースローの、わりと最近英訳が出たらしい“Seiobo There Below”を買おうか迷ったが、中をチラ見すると、相変わらず改行がなく文章が延々と続いているので、こんなの読むのに何年かかるんだと思い諦めた。英訳からの重訳でいいので、誰か邦訳してください! 他の作品もね! 『北は山、南は湖…』(松籟社)はそんなに面白くないんだよな…。
住所:600 Vanderbilt Ave, Brooklyn
http://unnameablebooks.blogspot.jp/

というわけでブックオフも入れて8店。しかし、重要なことは、買った本はちゃんと読まないと、ということだ…。
レコードに比べて本は単価がかなり安いので、Better Read Than Deadのように、やっていけてるのか心配になるお店もあるが、まあこればかりは仕方ない。特にニューヨークでやるなんて相当に大変なのは覚悟の上でやってるんだろう。日本でも最近はブックカフェとか、古書店で朗読や弾き語りイベントなんかをやってるところもあるが、そうやってコミュニティの中で活用される場としても、古本屋を機能させているようだし。ただ本を売る、というのはもうネットで事足りてしまうから、それ以上の何か、“Human Relations”という名を冠したお店が示すように、人と人をつなげる場に、古本屋の意義も変わってきているのかもしれない。今までインフォショップが担ってきたことを、古本屋もやるようになったということか。そういや今回は古本屋に気を取られて、インフォショップとか、ラディカル本屋的なところには行かなかったな。以前サンフランシスコにはあったが、ラディカル本屋がやってる古本屋ってのもニューヨークにはなさそうだった。

24. April 2018 by sats
Categories: books, US | Tags: , , , | Leave a comment

← Older posts